第34回MANGA OPEN、最終選考の議事録を公開します!

2013/10/03 00:00

MANGA OPEN] [新人賞

第34回MANGA OPENの応募総数323本から最終選考に進んだ13本を、森高夕次・東村アキコ両審査員と、モーニング編集部が厳正かつ愛を込めて審査!

両審査員に桁外れに完成度が高いと言わしめた、近年まれに見るハイレベルな闘いとなりました(選考結果はこちら!)。

それでは、未来のモーニングを支える才能をめぐる議論、選考過程をほぼノーカットでお届けします。ご覧ください。


[漫画] 『COLD PIZZA INC.』
Hebmu11er (京都府・24歳)

東村アキコ
絵は上手だし、読みにくさもないし、こなれてるな、という印象です。ただ、登場する女の子が全員ほぼ同じキャラクターなんですよね。見た目も性格も体の形も。これだけの数の女の子を登場させるのであれば、それぞれの差を際立たせるのが基本だと思うんです。じゃないと意味がないですから。絵もこれだけうまいんだから、ちょっと注意を向けていれば描けるはずなんですよ。それに、これが描けるってことは、アニメや漫画もたくさん観てきてると思うんです。「なのに何故!」という、その1点がどうしても引っかかりました。女の人も、もう少し色気があると良いと思います。
森高夕次
アメリカのある時代を捉えてガンアクションを描いてるんですが、設定の仕方や細かい描き込みによって、世界観は良く描けていると思います。しかしその分、それを舞台にしたストーリーの物足りなさが目立ってしまっています。それこそ学園モノとかだと、ストーリーが多少つまらなくても話には入っていけるんです。ここまで細かい設定がある独特の世界だと、読者を引き込むために相当なストーリーが必要だと思います。でも、逆に言えばそういう問題点が浮き立つくらい、良く描けているとも思います。
事務局員・寺山
担当です。同人誌即売イベントに出展していて、そこで描いていた同人誌が面白かったので声を掛けました。作品を読む限り、描きたいものを明確に持っている方だと思ったので、良い漫画が描けると思い、お願いをしました。
モーニング編集長・島田
24歳だから、結構若いよね。まだまだ伸びる可能性はある。
事務局長・三村
私はこの作品がすごく好きですね。絵の構図も含め、この世界観が本当に良く描けているし、楽しんで描いているのが伝わってくるのも好印象です。課題はキャラクターの描き分けですね。どういったところを注意していけば良いのでしょうか。
東村アキコ
そうですね……。好きなものを描こうという意識が強すぎて、人物の描き分けにまで意識がいってないんじゃないですかね。
事務局員・寺山
銃と車に関する造詣は深いと思います。
編集部員・T渕
禁酒法時代のアメリカや、クラシックなデザインが好きなんじゃないかな? ペンネームも「ヘブミューラー」だし。
東村アキコ
好きなものが明解なのはもちろんいいんだけど、偏り過ぎるのも考え物です。その結果、女の子のキャラが似てきているようにも思います。それこそ、『ルパン三世』の不二子ちゃんみたいなキャラクターが出てきたりしていれば、違う読み味になっていたかもしれない。読者としては、もう少し幅のある人間を描いて欲しいです。『キャッツ・アイ』などを参考にして、美女研究をしてください。


[漫画] 『火と水の虚構神話(なんちゃら)』
谷口千昂 (岡山県・23歳)

森高夕次
これは最終選考に残る価値が、非常にあると思う作品です。それは何でかって言うと、単純に絵がいい! ただ途中からファンタジーになっていっちゃうんですよね。僕は選考をやらせてもらっている中で、応募作に荒唐無稽で意味を持たないファンタジーが多いことに辟易としてるんですね、ぶっちゃけ。で、こんなにいい絵を描いているのに、途中からファンタジーになって訳のわからない話になっちゃって、いい素材を生かしきってない。もったいないなーとしか言えないなという感想です。でも、僕が原作で次に考えてるものに、この人が絵を付けてくれたらいいなと、真っ先に思った(笑)。まあそれは冗談なんだけど.絵は好きなんですよね。「モーニング」に連載されても違和感がない絵のテイストをしてると思います。ただ描いてきた作品に関してはあまりにも意味不明。しかも僕がちょっと嫌だなと感じるのは、何か高尚なことを描こうとしているのかなっていうのが透けて見えるという……。とにかく現実を描いてほしいです。
東村アキコ
私も絵はすごくうまいなと思いました。まず、この主人公の男の人。こういう男の人のことを最近なんて言うか皆さん知ってますか(笑)? うちの仕事場ですっごく流行っているキーワードなんですけど、おぎやはぎさんがラジオの中でこういう人のことを「クソメン」って呼んでるらしいんですよ。要するにオタクとか秋葉系とかじゃないんだけど、あまり普通でもなくて、モテたい気持ちもあるにはあるけどモテなくてお金もなくて仕事もバイトで、みたいな。この主人公は絶妙な「クソメン」描写です! この顔の描き方なんて、イケメンでもないし、普通でもないし、かといってオタクでもない、普通の男の人ゾーンにギリ踏みとどまってる感じ。この描写力はスゴい! 上手い! と思います。それに、服のしわとかもこだわって描いてるし、女の子もかわいいし、魅力的だし、目の描き方もいいし、ホントいい絵を描く方だなと思います。でも話は本当に作れない方だなーと思いました。話を作れない人って風呂敷を広げすぎちゃうというか、自分に何が描けて何が描けないかわからない人が多くて、その典型的なタイプだなと。このクソメンと女の子の共同生活が始まってみたいなシンプルな話だったらよかったのになと思いました。これからは担当さんがテーマを決めてあげたり、これ以上登場人物を出すなとかプロデュースしてあげたらいいのかな。この作品に限っては話を描けない人だなという印象です。訳わからなくて、読めなかったですよ後半は。でも、やっぱり絵は良かったな。漫画の才能はあるんだと思います。「もしかしたらイケル」と思わせるキャラクターデザインの才能がすごくあると思いました。眼鏡のフレームの感じとかもいいですよね。好きです絵は。
事務局員・劔持
担当です。彼は理系の国立大学を卒業してから、実家に戻ってアルバイトして生活してる方でして……。
東村アキコ
クソメンだ(笑)。
事務局員・劔持
本人に伝えづらいですね(笑)。……えっと、大学生になるまでほとんど漫画を読んだことがなかったという珍しい方でして、今までは何本か某少年誌の新人賞に応募していて、初めてそこ以外の新人賞に応募したのが今回のMANGA OPENだということでした。本人はすごくSFが好きらしいです。たしかに今回の応募作は風呂敷を広げ過ぎな感があると思いますし、収拾がつかなくなっている所もあるとは思うのですが、ちゃんと登場人物3人にお話の焦点を絞ってこのページ数でまとめているところは評価できるのではないかと思いました。会話を描くのが上手だからか、最初見たときはネームが多くてすごく読みづらそうだなと思ったんですけど、個人的にはすーっと読めたんですよね。
東村アキコ
この人の漫画って「愛」があるんで、それで読めるんだと思うんです。ラストシーンとかもそうですけど。
森高夕次
SFが好きだっておっしゃいましたけど、これはSFではないですよね。SFってのは科学的考証があるからSFなのであって、なんの説明も考証もないのは単なるファンタジーだと思うんですよ。これは明らかにファンタジーですよね。いっさいなんの説明も考証もなく不思議なことが起こるってのは、大人の雑誌の感覚としては合わないと思うんです。だからファンタジーっぽいもので高尚なことを描こうとしている感じが鼻につくんですよね。ちゃんと説明して大人的見地があって描こうとしているならいいんだけど。今後は子供っぽくならないように、そこは導いていってほしい。
東村アキコ
この人って漫画をあまり読んでないってこともあって、漫画ってのは突拍子もないことを描かなきゃダメって思い込んでる感じがする。『俺はまだ本気出してないだけ』とかを読んでもらって、こういう表現も漫画なんだよってことを教えてあげたらどうですかね。私は、ぜひクソメンを描いてほしい。
事務局長・三村
ところで、背景すごくいいですよね、時々怖くなるくらい。絵を描くのがすごく楽しいんだろうなってのがバシバシ伝わってくる。
森高夕次
絵はもうちょっと描けば、すぐメジャーっぽくなると思いますね!


[漫画] 『黄金の指揮者』
車戸亮太 (滋賀県・23歳)

東村アキコ
この作者には、すごい珍しいタイプの、滅多にない才能を感じました。山田玲司先生タイプというか。キャラクターが本当に魅力的で、主人公も指揮者の先生も全員のキャラに眼力があった。グスタフ、すごい良い顔してるなって(笑)。 キャラの性格が顔にみんな出てるから、読まされる。漫画を描くのに一番大事なものを全部持っている作者さんだと感じました。演出が古かったり、海外のオーケストラの話だけど説明もあまり無くて、どうしてこの題材を選んだのか? などわからない部分はありましたが、私はとても好きな作品で、大きな期待を持ちました。
森高夕次
とても完成度の高い作品だと感じました。ただ僕はこれ、読んでいてファンタジーって決めつけてしまったところがありましたが、どうなんでしょう? ファンタジーじゃないかも? と悩むというか、「モーニング」本誌を狙っているのか、あるいは「月刊モーニング・ツー」を狙っているのか、そこがハッキリしないように感じましたね。もちろん「月刊モーニング・ツー」が悪いわけじゃないんだけど(笑)、両誌には決定的な性格の違いみたいなものが厳然としてあって、この作品は「モーニング」に載ると絶対合わないと思う。「月刊モーニング・ツー」を意識して描いているんですかね?
編集部員・M本
担当です。車戸さんは過去にちば賞とMANGA OPENで1回ずつ賞を取りました。大学の漫画学科を卒業された方です。先ほどの森高先生の疑問点についてですが、担当としては、作家さんが新人賞に応募している時期というのは「まだどんなものが描けるかわからない」という部分もあると思っていまして、だから基本的には自由に描いてもらうという方針を取っています。なのでこの作品も、掲載誌を意識せずに描いてもらったところがあるのですが、確かにもうかなり表現者として成長されていると思うので、そろそろ読者を意識したもの、現代の日本を舞台として、といったことも相談すべきかなと思いました。
モーニング編集長・島田
全体を通して、キャラクターの描きっぷりはすごく良いと思うんだけど、主人公がこういう小さい子供みたいだと、大事なシーンでグッと来なかったり、どうも少年漫画に見えちゃうのかな。対してこの大人の指揮者の眼力、大したもんです。
編集部員・T渕
東村先生が山田玲司先生と仰っていて、確かに! と思いました。山田先生もテーマが高尚なものも多く描かれていますが、ヤンキー層にも広く受け入れられるところがあって、この方も描いているテーマと、支持される層が違う、ということはあるかも知れませんね。
東村アキコ
確かにそうで、作者さんは何でこの舞台で描いたんだろう? というのが疑問でした。ベルリンのオーケストラの話ですが。
編集部員・M本
車戸さんはブルースなど、音楽に非常に興味がある方なんです。ですのでこれまでも音楽の題材は多かったのですが、クラシックをテーマにしたのはこれが初めてでした。
モーニング編集長・島田
なるほど。今思い出したんだけど、この人はいつも主人公をかなりデフォルメしてないかな? キャラの描き分けはうまいのだから、ここまでデフォルメしない普通の人間のキャラに挑戦してみては、と思いました。


[漫画] 『ポンポコ侍』
林良二 (東京都・28歳)

森高夕次
見させてもらった中では完成度が高い部類に入りますし、読みやすい。素晴らしいとまでは言いがたいですが、作品としては文句をつけようのないものだと思います。ただ、なんでファンタジーなのか、というところが気になります。ちゃんと俯瞰の絵が描けて、アクションシーンも読みやすく、画力に基づいた描写力がこんなにあるのに、どうしてファンタジーにしてしまうのか? 「モーニング」の新人賞ならば、ファンタジーではなくリアルなものを描いてきてほしい。意味もなく不思議なことが起こるようなものは幼稚で子供っぽく感じてしまいますね。なんで狸が出てきてしまうのか? こういった理由もなく起こるファンタジー描写に疑問を感じてしまいますね。
東村アキコ
絵は本当にうまいな、と思います。ただ、この人がどういう気持ちでこの話を描いたのか、 ということがわからないです。「よし、狸にしよう!」みたいなのがあったんですかね(笑)? 急にひらめいて狸を突然出しちゃったんでしょうか? 「漫画を描くことってどういうことなんだろう?」って思っちゃいましたね。こんなに絵がうまい人なのに。フツーにさらっと出てくる狸に、違和感がとてもある。登場の仕方に本当は何か説明がいると思います。うーん、私には理解ができない。授賞式の時に聞いてみたいと思います(笑)。 最初の方の横顔や土蔵の感じが、「コレいいぞ!」と思ってたのに、もったいない。しかも主人公が最後まで何の活躍もしないし。
事務局員・上甲
担当です。持ち込みで受けたので、打ち合わせはしていない作品なのですが、絵が圧倒的にうまかったので、MANGA OPENに出してみたらとすすめてみました。持ち込みで受けた時に、僕も話自体は何だかよくわからないな、とちょっと思ったんですが、見せゴマの作り方が抜群に上手いと感じたので、可能性を感じました。何を描きたいか、などを含め課題はあるとは思うのですが、もし打ち合わせを経て作ったら、いいものを描けるのではないかと考えまして。
モーニング編集長・島田
今回ebookjapan賞があったでしょ。こういう絵が上手い作品ってWEBで票取りそうかなって思ったけど、上位に入らなかった。かつて漫画が数少ない娯楽だった時代だったらまだしも、今の時代は漫画家に「表現したい」ものや「表現したい」衝動があると大きな武器になると思う。そういう意味では、この作品にはそれがちょっと足りないように思う。上手いのは上手いし、最終選考の作品の中で一番読みやすかったのは、そうなんだけど。


[漫画] 『つねありくん』
安芸山丈司 (千葉県・30歳)

東村アキコ
絵がよくて、読みやすかったです。あと、ペンネームがいいですね(笑)。もし、この作品が雑誌に毎週掲載されてたら、きっと読むだろうな、という感じです。でも、もうちょっと笑わせてもらわないと……というのが正直なところです。頭で考えたギャグという感じ。まぁ、投稿作としては読みやすくて完成度も高くてよかったですが、ギャグはもう一息ですね。
森高夕次
僕はこれ、芸人の世界でいうと「すべり芸」だと思います。要するに、ためてためて……「ここで面白いオチがあるよー」って感じを出すんだけど、結局つまらなくてすべっちゃうっていう感じです。“ため”を上手く作ってある分、すべり感が増しているんだと思います。でも、これはあくまでも僕の感覚で、過去に自分のギャグ漫画で「これ、すべってんなぁ」と思ったものが、世の中的にはうけている、ということもあるので……センスの問題って言われると、あんまり強く言えないです。僕の感覚ではこの作品はすべっているけど、世の中に出した時に、たとえば「この漫画好き!」っていう女子高生からお便りがきたりするかもしれない。だから、「モーニング」にのっけてみるっていうのも面白いかもしれないですね。今後、普通はギャグのセンスを磨くべきだけど、もし面白いオチがつけられないのなら、すべり芸のほうに磨きをかけて、ためてためて……最後つまんないオチで、「今週もすべっちゃって、スミマセン」みたいな「すべり漫画」の境地を目指すのもアリかもしれないですね。色々と言いましたが、僕は彼の作品は比較的高得点をつけていて、キャラがきちんと作れている点を評価しています。すべっているか、いないか、というのは新人賞においては二の次で、キャラを作れる能力があるということが、評価すべき点だと思っています。
編集部員・K林
担当です。この作品について、言うべきことって実はあまりなくて……ギャグって「面白い」か「面白くない」かだけなので、今後はたくさんの数を描いていけるか、ということにかかっていると思っています。安芸山さんのことを少しお話ししておくと、実は彼はすでにデビューしていて、他社から単行本を3冊出しています。本人はまたイチからやるつもりで、新人賞に応募したそうです。森高さんもおっしゃっていましたが、キャラが描けていた、というのが評価している点です。これがないと、ギャグ漫画は描けないと思うので。それができていただけでも、この作品は合格点かなと思っています。あとは、何本か描いてもらって、あたるものを目指していこうと思います。
森高夕次
この最終選考で唯一のギャグ漫画っていうのは、すごいことですよね。重厚な作品とか、色々なジャンルがある新人賞でギャグを評価するのってなかなか難しいんですが、そのマイナスを飛び越えて最終まで残ったっていうのは、それなりに評価するべきですね。
東村アキコ
設定を、もうちょっと丁寧にやってほしかったですよね。最初に「住所不定無職」って言ってるのに、督促状が送られてきてる(住所あるじゃん!)とか、設定が全体的に薄い。もっと世界観の作りこみができるはず。本当につねありくんがいそうな要素とかを付け加えられたら、もっと面白くなるかもしれないと思います。
編集部員・K林
打ち合わせせずに描いた投稿作なので、そこらへんはちょっと甘いですね。
編集部員・F沢
泉昌之の漫画に似てるよね。
森高夕次・東村アキコ
あぁ~。『ダンドリくん』に似てるかもね。


[漫画] 『アイリウム』
モトキ (東京都・30歳)

森高夕次
この方については、最終選考がはじまる前に単行本を何冊も出していると聞いてしまったんでね、評価が変わってきてしまうんですよ。MANGA OPENがプロアマ問わずとはいえ、たとえば僕がこの賞に投稿するわけにはいかないですよね?
一同
(笑)。
森高夕次
何作品までの発表なら、あるいは単行本なら何冊未満なら応募資格があるのかって考えると、かなりの冊数出している人は応募資格がないんじゃないかなって思ってしまうんですよね。
東村アキコ
どこで連載していた方なんですか?
事務局員・奥村
某少年誌で9巻まで出しました。
東村アキコ
9巻! えーすごい!!
森高夕次
それはプロの中のプロですよね。しかし、それは置いておいて、最高評価に値すると思うのは、単純なファンタジーが今回の応募作では多かったのに対して、この作品はきちんと、“アイリウム”という薬の効能であったり、副作用についての説明がなされているというのがすばらしいと思いました。ストーリーもヒネリが利いているし、オチもすばらしいし、「新人賞でなんでこんなのが出てくるの?」って思いしかなかったので、過去のすべての作品を超えた作品ということで最高点以上の得点をつけたんですが……ただ、単行本9冊出しているっていうのを聞いてしまったのでね。もちろん単行本9冊というのも、作者自身の思いとしてはイマイチということかもしれなくて、「モーニング」の新人賞に投稿してきたと思うんですけど、しかし、うーん。賞をあげていいんですかね? 作品はすばらしいのですが、受賞資格があるかどうかについては考えてしまうなぁ。ぼくはずぶの素人が描いてきたと思ったから感動したんであって、そうですねー。ともかく、この評価シートにも書いたんですが、3作品目に人気の取り方がわかって飛躍するんじゃないかと思ったりもするんですよね。受賞資格についてはわかりませんが、「モーニング」で新境地を開いて活躍する資格は十分あると思います。
事務局長・三村
ありがとうございました。資格という意味で言えば、あるんです。他誌で描いていた人でもOKなんです。ただ、他所で連載していたものをそのまま送ってきたら受賞は難しいかもしれませんが…。
森高夕次
単行本9冊というのは?
事務局長・三村
OKです。MANGA OPENは認めています。現状がどうかということは問いません。一方の東村さんも最高評価ですが、いかがですか?
東村アキコ
私はこの人には受賞資格があるのかどうかが疑問なんです。このような応募がまかり通ったら、漫画家になりたくって田舎でなんの情報もなしに命を削って漫画を描いているド素人がやる気をなくしてしまいますよ。プロとしてやっている人が応募してきて100万円持っていったら、自分たちみたいな素人が描いて送っても賞は取れないよって、私なら思ってしまってこの新人賞には送らないなぁ。この作品に対してはもちろん評価は高いんですよ。でもこの人はなんでモーニング編集部に持ち込まずに新人賞に送るという方法を取ったんでしょう?
事務局員・奥村
ぼくが担当なのですが、その雑誌で連載が終わった後、新作のネームを描いて出されたんですが、担当者から「ネームは通ったんでもうすぐ連載できます」と言われながら2年の間、実際にはOKが出ずに苦戦していたらしいんですね。そんな中で生活もあるし、連載で描いていたバトル漫画だけではない、大人の読者に向けた作品も描きたいということで、「モーニング」に送ってきてくれました。苦戦していた期間は、義理もあるので他に持っていくわけにはいかない、だけど自分に何ができるかは試したい、そんな葛藤があったようです。ご本人としては、プロアマ問わずというMANGA OPENだからということで送ってきてくれたわけで、しかも本名で送ってきているので、自分の身分を偽ったりしていたわけではありません。担当としては、この作品はそんな自分の状況、賞を取っても未来は不透明で、自分の状況が不安定であるということ、を作品にぶつけていると思い評価しています。
東村アキコ
連載時の作品は今回の応募作と絵柄も全然違うんですか?
事務局員・奥村
全然違います。少年漫画のキャラクターらしい絵柄でしたね。
森高夕次
受賞資格があるかどうかは微妙かもしれないのですが、たしかに連載をしていても2作目がなかなか世に出ないという人はいっぱいいると思うんですよ。単行本4冊くらい出したんだけど、塩漬けにされていたので他でチャレンジするためにって言うならわかるんだけど、9冊も出していたら、「連載していたところとはちょっと縁が切れそうなんで、他の雑誌でやってみたい」というのが、まっとうな行動パターンだと思うんですよね。やはりちょっと新人賞に割り込んで来たって感覚があるなぁ。
東村アキコ
でも、単行本9冊出した人にしちゃあ面白くないと思いますよ。
事務局員・奥村
ぼくはその単行本9冊というのが、どのくらいの評価かわからないのですが、彼の連載作には、「もうちょっといろいろできただろうに、長くひっぱっちゃったあげく打ち切り」的な印象を持ちました。
モーニング編集長・島田
「モーニング」に送ってきたのは、単にコネがなかったから?
事務局員・奥村
持ち込みに行くとどうしても過去の作品が評価対象になってしまうので、フラットに評価してもらいたいという気持ちがあったそうです。プロでもいいと応募要項に書いてあるので、素直な気持ちで送ってきたのではないでしょうか?
モーニング編集長・島田
そりゃそうだな。
編集部員・T渕
MANGA OPENの「プロでもあり」っていう募集要項は、他の出版社でややくすぶっている実力派の人を取りたいっていう狙いもあったんじゃないですか?
事務局員・奥村
そうだとしてもそれはこっちの事情で、そんなことは応募者にはわからないし、そんな腹積もりが編集部にあろうがなかろうが、応募資格があるのに自粛させるのも変な話ですよね。
編集部員・T渕
でも、対外的には講談社で連載していた人が講談社の別の新人賞で受賞するというのは……。
事務局長・三村
いやいや、この応募要項の意図を言うと、「いろんなことをフリーにしよう」という思いで考えたんです。別に他の出版社で描いている実力者を取りたいなんて意図はなく。そういう意味ではこの人は受賞の資格があります。
東村アキコ
でも、それなら、例えば現時点で雑誌で連載している人が「モーニング」でもやりたいと思ったらこの賞に送ってきてもいいってことなんですか? 当然、プロが描いているわけだから面白いですよね。そうなったら、他の人より面白いからその人に100万円あげるんですか?
モーニング編集長・島田
プロアマといっても、雑誌に掲載経験がある人が送ってこれるようにというイメージだったので、想定外と言えば想定外なんですが。
編集部員・T渕
ただこの人はモーニング編集部で担当してくれる人が欲しかったわけで、100万円欲しいってわけではなさそうですけどね。
森高夕次
どんな賞にするかというのは、暗黙のオペレーションになってくると思うんですよね。以前描いていたものと投稿作が、作者が生まれ変わったみたいに別ものだったら、それをまっさらなものとして評価するということになるかもしれないし。単行本の冊数で機械的に落とすというものではないでしょうから。そこは現場感覚で、この作品の評価と、単行本9冊を他誌で出しているということを照らし合わせていくとこの人に100万円渡してしまっていいものかと思ってしまいますね。
モーニング編集長・島田
たしかに、事前に情報がなかったら「すげー新人だな」って思うよな。
編集部員・奥村
だからこそ、部内選考というものが機能するのではないでしょうか? ぼくはこの人に大賞を出すべきだとは思っていません。少年誌というのは、やはりある種の少年誌的な枷があると思うんです。それこそ敵と闘ったり友情を深める的な。森高さんがおっしゃったように、たとえば知り合いの編集者を介してモーニング編集部に持ち込みをするのがセオリーなのかもしれませんが……。
東村アキコ
そういうことができないタイプ?
事務局員・奥村
そうなんです。ぼくとしては、バトル漫画ではない新境地でこういった作品を描いてきた作者に、今後どんなものに挑戦すればいいかなどをお二人にアドバイスをいただければ、どんな賞でもかまわないと思っています。


[漫画] 『どるらんせ』
なきぼくろ (大阪府・27歳)

東村アキコ
松本大洋系の絵ですね。絵はいいし好きなんですけど、漫画になっていないと思います。その理由を挙げると、無駄にコマが大きかったり、ふきだしやモノローグの位置はぐちゃぐちゃだし、コマ割りやコマ運びなど基本的なことが全然できていませんね。だから漫画として読めない。一度4コマなど「定型」を描いてみるのがいいのかもしれません。
森高夕次
僕も同じような感想。イラストを描きたいという気持ちは伝わってくるんだけど、漫画の描き方がわかっていない。漫画になっていない。これを漫画として評価しろと言われても評価が難しい。ただイラスト作品としては満点でしょう。このイラストはプロの中に入っても評価されるものだと思います。こういう人は絶対に漫画家になれるわけがないよ、と思ったんですけど、一方で案外こういう人が何年かやってると、まっとうな面白い漫画を描けるようになるんじゃないのかな、って思う節もある。基本的なポテンシャルは高いわけですから。いま大ヒット作を出している某漫画家が、大昔、僕の仕事場に遊びに来てくれたことがあるんです。そのとき彼の新人賞をとった作品を見せてもらったんですが、漫画としては意味不明で、渋谷を歩いているオシャレ系のアンちゃんをただ描いたものだったんです。オシャレな絵を描きたいというモチベーションはものすごく伝わってくるんだけど、これは漫画になってねえよ、という作品でした。しかしその後、某漫画家はものすごく面白い漫画を描けるようになったわけです。この『どるらんせ』はあの記憶とイメージがだぶる。読みやすいといえば読みやすい漫画なんです。ただつまらない、意味不明ってだけの話で、こういう人が化けるのかもしれません。僕は最終選考作品のなかで一番ひどい点をつけたんですけど、最終選考に残った理由もわかる気がします。
事務局長・三村
ちなみにこれはeBookJAPAN賞で1位になりました。
事務局員・水野
 
担当です。彼は、現在イラストレーターとして活動しています。結婚式のウェルカムボードの作成や飲食店の壁にイラストを描いたり……。ちなみに超有名な高校野球の強豪校出身で、甲子園にも出ています。ちなみにeBookJAPAN賞ですが、本人は「なぜネット投票で1位になったかわからない」と言ってます(笑)。彼はこれまで漫画を描いたことは一度もありません。また、漫画を読んだこともほとんどないんです。なぜ漫画を描いたのかというと「今年の初夢で漫画家になる夢を見た」そうなんです(笑)。私も先生方と同意見で、漫画は意味不明なんだけど、絵は素晴らしいと思います。では、そんな彼は今後どうしていけばいいのか、ご指摘くださればと思います。
編集部員・T渕
この人、悪ガキの顔や背中の感じがものすごくいいな、って思うんです。高校の野球部でいろいろ“濃い人”を見てきたんだな、と思います。北野武が「浅草時代があったから今がある」と語っていますが、その言葉を思い出しました。ふつうの漫画家志望者があまり見てない人を見てきたんでしょう。
東村アキコ
とりあえず漫画をいっぱい読むべきでしょう。特に昔の作品がいいかもしれませんね。この人はもともと絵描きなわけですから、真似るのも上手いと思うし、漫画のルールが頭に入っちゃえば、次の作品はもっと良くなるんじゃないかと思います。たとえば登場人物のあだ名とフルネームがいちいち入っていますが、別にフルネームに読者は興味がありません。だからあだ名だけでいい。こういうことも漫画を読めばすぐわかること。森高先生の話を聞いて「なるほど。こういう人が化けるかもしれないな」と夢は膨らみました。
森高夕次
とにかくいっぱい描いたらいいと思う。この人が化けるんじゃないか、と思う理由がもうひとつある。それは、この作品ファンタジーじゃないってこと。不思議なことが意味もなく起こる漫画じゃなくて、変な人たちが変なことをしているだけだから、地に足がついている作品なんですよね。ただ漫画になっていない。だからもう5作ぐらい書いて、その次の6作目を見てみたい。
モーニング編集長・島田
彼が最終選考に残ったのは、経歴を買ったという点もあるんです。高校の野球部でなかなか経験できない事を経験しているはずだから、ぜひ野球漫画を描くべき。ネタを持っているというのはすごい才能なんですから。


[漫画] 『人殺しの車』
坂本翔悟 (埼玉県・26歳)

森高夕次
 
この作品、途中まで凄く読ませる話だったね。前半部分のミステリー要素というか、「この話、いったいどうなっていくのかなあ」っていうサスペンス感がとても良かった。だけど、最後のオチの部分は、正直、いまいち良くわからなかったんですよ。でも、僕としてはそれは評価に大きく関係するほどの問題でもなくて。なんせ、ここまでとてつもなく上手い画面構成、絵が描ければ、それだけで十分評価に値すると思う。だって本当に、この作品オシャレだよね。スクリーントーン一枚も使ってないのかな? 光と影のコントラストがかっこ良くて、もう素晴らしいよ。あとこれ、背景とか車とか一切定規を使わずフリーハンドで描かれているんですよね。普通だったら定規使いたくなっちゃうと思うんですよね。暗闇の中にホワイトで線を入れていく感じとか、すべてにおいて上手いなあと思いました。上手いオチをつけるのは、今後の修練や担当編集者の教えとかでいくらでも何とかなる。とにかく僕はこの大力作は高く評価してあげたい。
東村アキコ
私も、凄く好きな作品ですね。単に、この人の絵が好きなのと、あとは、台詞が自然なところもいいな、と。この人が書く台詞って、本当にこの世代の若者が言ってそうなんですよね。キャラクターがちゃんと喋ってるなっていう感じが凄くしてて。映画でも、登場人物の喋っている台詞が自然に心地よく格好よく聞こえるものと、これは脚本家が頭の中でこねくり回した台詞だなって不自然に感じるものがあるじゃないですか。この作品は、台詞回しが凄く心地よかったので、そういう面では、かなり好きな作品です。ただ、ストーリーが……。人を轢いたところまでは凄く面白くてわくわくしたんですけど、結局、クズ野郎の話だったっていう。
一同
(笑)。
東村アキコ
(笑)。あと、途中で画面が逆さになるじゃないですか? 何で逆さになったかわかんなかったんですけど……車がひっくり返ったから逆さってことですかね? 
編集部員・K林
そうですね。とにかく、車の視点で描くことにこだわっているんです。作者はそもそも狭い密室劇をやりたかったんですよ。だけどこれ、オチで二人が車から出てしまうじゃないですか。そうじゃなくて、最後まで二人を車から出さずに話を完結させられたら、もっと良かったかもしれないです。
森高夕次
確かに。それだったらもっと面白かっただろうね。
編集部員・K林
こういう人って、次、どういうお話を描いたらいいんでしょうか? 絵や構図の面では凄くセンスを持っているんですけど、それだけだとデビューは難しいですよね。そこからデビューするかしないかというのは、題材の選び方とか、彼自身がどんな作風に向いているか見極めて描いていくことが一番重要だと思うんですよね。
森高夕次
この人は、ファンタジーとかじゃなくて、リアリティにこだわったお話を創っていってほしいね。たぶん、明るい話はこの人は合わないんじゃないかな。殺伐とした雰囲気の中で進む、ミステリーやサスペンスがこの人は合っていると思いますよ。あとは、車が主人公のお話で、持ち主がどんどん変わっていくオムニバスはどうだろう。意志がある不思議な車を描いてみるのもいいかもしれないよね。
編集部員・K林
参考になります。ありがとうございます。


[漫画] 『僕らは城に通う』
沢田友吉 (神奈川県・24歳)

東村アキコ
これはすごく読みやすくて、絵もよかったし、面白かったです。賞候補の作品ですね。主人公が突然、気持ちを入れ替えるシーンは「なぜ、急に気が変わった!?」と、ちょっとついていけなくて笑っちゃいましたが。学校を城に例えてるのもよかったですね。普通にほのぼのとしたいい漫画だと思いました。
森高夕次
僕はすごくいいと思いました。この作品がファンタジーなのかそうじゃないのか、ちょっとよくわからなかったけど、屋上に行くと完全にファンタジーみたいになってますね。屋上と教室では世界観が分断されているのかなと思いました。たぶんこれは作品の世界観を象徴するために、屋上に行くと違う世界が広がっているということを表したかったのかな、と。自分がよく読んでいる漫画の作者が実は身近にいたっていうのは、実はわりとある話なんだけど、新人賞で読むと「おっ、面白いな」と思っちゃうんですよね。普通に雑誌に掲載されてたら、よくあるアイディアかな、と思うかもしれないけれど、新人賞レベルとしては、すごく読ませてくれたと思いました。主人公の男の子と漫画家の女の子のふれあいもよかったし、二人の会話劇も僕は新人賞レベルとしてはかなり高次元であったと思います。オチもよかったですよね。まぁ、何かハッタリを決めなきゃいけないって思って、最後のほうで大ゴマとか描いてるんだと思うんだけど、そこらへんはちょっとわざとらしくもあったかな、と。でも、繰り返しになりますが新人賞応募作としては非常によくできていると思います。
編集部員・K本
大学の漫画学部を卒業していて、大学で初めて漫画を描いたそうです。今まで他社の新人賞に数回応募して、下のほうの賞に入ったことがある、という感じのようです。あまりガツガツ描くタイプではないらしく、今は特に何の作品も描いてないそうです。主人公のような雰囲気の人です。次は野球の話を描きたいそうです。この方の描くお話自体は、普通の話なんですが、絵の雰囲気で「なにかありそうな感じ」が魅力になっているのかな、と思っています。


[漫画] 『スイカ』
大月魚目 (東京都・21歳)

森高夕次
最後のオチのところの意味があまりよくわからなかったので、そこは残念でした。いったいどうなるんだろうって散々気を持たせて、最後の最後でこのオチは一体……と思ってしまった。だけど、僕はオチよりかは途中を読ませてくれたら、いい評価をしてあげたいなと思うんですね。途中まで、かなり面白かったですよ。この人の絵は、上手いか下手か、好きか嫌いかという評価がハッキリと分かれると思うんですけど、21歳の新人の子が描いてきたんだと思えば、レベルも高くて将来性も凄くあると思いますね。もっともっとたくさん描いていけば、大きく伸びるタイプに思えました。ただ、この作品だけではちょっと判断しかねますが。将来性を買いたいですね。
東村アキコ
私もこの人の絵、とっても好きです。子供たちの目の描き方も好きだし、構図も凄い好きだし。俯瞰だったりあおりだったり、凄く上手い。全然描き慣れていないし、こなれていないんだけど、絵がもともと物凄く上手い人だろうと思うので、何作か描いたら今とはまた段違いに上手くなって変わっていくんでしょうね。
事務局員・柳川
ありがとうございます。まだこの方は漫画をそんなに描いたことがない方なんです。確かこれで2作目だったと思います。だからこそ、森高先生や東村先生が言われるように、伸びしろが凄くあるんじゃないかと期待しています。
東村アキコ
ただ、問題はお話ですね。わからなくはないんだけど、もっと「普通」に描いたほうがいいんじゃないかな。このお話って、要するに離ればなれになっちゃった親子の話ですよね? そしたら、スイカの話がメインじゃないほうが良かった。親子が久しぶりに会うというドラマ、そこをもっと見たかった。あと、この主人公の男の人がじつは、いろいろと苦悩しているのを読者に読み取ってもらおうとするんじゃなくて、さりげなく説明して読ませてあげられるように意識を変えたら、凄くいい漫画が描けると思う。変化球じゃなくて、この作者が「普通」を徹底的に意識して描いたものを読んでみたいな、と思いました。
事務局員・柳川
ストーリーですが、こういう「何気ない話」を面白く読んでもらうことって、とっても難しいことだと思うんです。作者は、その「難しいこと」に挑戦しようとしているんだけど、やっぱりまだそれが上手く表現しきれていない。ただ、作者のセンスは凄く感じるので、どんどん新しいものを描いていって表現の幅を広げていってほしいです。


[漫画] 『いちえふ ~福島第一原子力発電所案内記~』
竜田一人 (神奈川県・48歳)

東村アキコ
これは私がどうこう言える作品ではないと思いました。アシスタント経験が長いと背景などの絵が上手いとしても、人物の顔がモブキャラっぽくなりがちだと思うんです。ただ、この人にはそれがない。人物の顔が魅力的で生き生きして命があるのがよいと思いました。作品自体はレポート的な内容だったので、それをただ読んで「ああ、なるほど」と思うだけだったので、特に言うことはありません。絵と画面が非常に良いと思いました。
森高夕次
漫画はきれいなところにいるだけじゃ描けないとつくづく思いました。この作者は、実際に働いて、その経験から漫画を描いている。足を使って得たものを真っ白い原稿にぶちまけるという漫画家としての正しい姿勢があると思いました。ただ頭の中で考えて、何か高尚なことを描こうとしている漫画がちっぽけに見えてしまう。物書きの本質を体現していると思える迫力がこの作品にはありますよね。
編集部員・S原
担当です。作者は、原発に働きに行ったら半年で放射線量が上限に近づいてしまって、戻ってきてから漫画を描こうと思い立ったそうです。このままルポ的な内容で続けるとして今より面白くなるような方法はあるのか。そのあたりについて伺いたいと思っています。
森高夕次
これは本当のことしか描いていない漫画だと思うんです。面白くするんだったら、嘘ギリギリの芸をやるっていう感覚で描くといいんじゃないかな。
モーニング編集長・島田
ただ、俺はこのままでも面白いと思ったんだよね。ネタ探し的な気持ちで仕方なく描いた漫画ではないと思う。臨場感がすごくある。自分が体験したことをみんなと共有したい、描きたくて仕方がない、そんな気持ちがひしひしと伝わってくる。社会的な使命感とは別のところにある、描くことへの欲望がこの作品に熱量をもたらしているんじゃないか。
編集部員・S原
片仮名の鍵括弧つきで語られる「フクシマ」と、実際その場に行って体験することとはだいぶ異なっている。描きたかったのはそのことだと、本人は言っていました。
東村アキコ
外側から見ていると、恐ろしくてとんでもない作業が行われている場所なんだけど、内側にいると、ほのぼのとまではいかないけれど淡々とした日常があるということを描くのはすごく意味があると思います。
モーニング編集長・島田
実際、当事者にしかわからないことを描いていると思う。そして、それを伝えたいという「言いたくてたまらない欲」が相当あるよね。
編集部員・Y原
そこでしか通用しない言葉とかに説得力がありますよね。
モーニング編集長・島田
原発を文章にした人はもうすでにたくさんいると思うんだけど、漫画は初めて。「モーニング」にとって稀有な出会いだと思うね。


[漫画] 『悪春記』
河部真道 (愛媛県・21歳)

森高夕次
以前MANGA OPENで「森高賞」に選びましたよね? あの時の作品は、熱量があったけど、まあ読みにくかった(笑)。そこから考えると、かなりの進歩です。戦国モノを描くにはまだ実力が足りないけど、21歳でこれが描けるのはすごい。
東村アキコ
確かに、かなり読みやすくなりました。キャラクターも魅力的だし、ちゃんと活き活きしてる。ただ、自分に合うジャンルが見つけられてないんだな、というのは感じます。今回も、鎧を細かく描き込んだりとか頑張ってるんだけど……。とりあえず、絵物語みたいにト書きで説明するのはすぐにやめさせた方がいいですね。
編集部員・S原
前回の受賞以来、打ち合わせをしていたんですが、それとは別に「実はこんなものを描いていたんですが……」と持ってきたのがこの作品です。本人がまだ読んでなくて、彼の参考になりそうな漫画を、打ち合わせのたびに渡してるんですが、とにかく吸収力がすごいです。この作品も前よりはかなり良くなってると思います。
東村アキコ
すごく「モーニング」っぽいですよね。
森高夕次
ただやっぱりジャンルは合ってない。前回は近未来モノだったし……出来れば次回は現代劇を描いて欲しい。
編集部員・S原
彼はとにかくバイオレンスで勝負したいんです。現代を舞台にどうやってバイオレンスを描こうか……と日々話し合ってはいるのですが……。
森高夕次
バイオレンスを描きたいっていうのは一種のメジャー志向だから、それはすごく良いんです。要は『アウトレイジ』みたいなのを描けばいいんですよ。
モーニング編集長・島田
高揚感があるよね。俺はこの人、相当良いと思う。ただ、文字で語ってる部分が多い。それを我慢して絵で描くのを頑張りたいね。女のキャラも、前の作品より上手くなってるし。
編集部員・S原
普通に女の子が好きな健全な奴なので女の子描けるんじゃないかと思います。
一同
(笑)。
森高夕次
とにかく才能はある。前回がレベル2だとすると、今回はレベル5まで上げてきた。次回作はレベル10を超えることを期待しています。


[漫画] 『iceworld』
tsk村 (山口県・24歳)

東村アキコ
絵も下手だし、話も訳がわからない、あんまり良いところはない印象でした。
森高夕次
僕は深読みするタイプなので、「モーニング」と「モーニング・ツー」っていう性格の違う雑誌がある中で、「モーニング」本誌には別に描きたくなくて、「モーニング・ツー」に載ればいいやという作者の意図を感じました。そうじゃないかもしれないけど(笑)。自分がリアリティのある作品を評価したいと考えているので、「モーニング」本誌に載るような作品を作ってほしい。「モーニング」本誌掲載を目指して、ダメだったから「モーニング・ツー」に描きましょう、というのならわかるんだけど、最初から「モーニング・ツー」狙いなのはどうかと考えてしまいます。まあ、意図的にやったのかどうかはわからないけれど、少なくとも私はそう感じました。
事務局長・三村
実は、この作品に関して言うと、編集部内で強烈に押している人間が何人かいたんです。
森高夕次
平均点は低いのに、誰かがすごく押したから上がってくる。そこは新人賞選考の面白いところですよね。誰が押したんですか?
事務局員・高橋
私が担当です。押した理由は二つあって、まず、空間の切り取り方や視点の位置にセンスを感じました。それともう一つ。アイスにカメラを入れるアイデアがありますよね。その部分を読んだとき、この作者はコンビニでアイス売り場に行ったらそんなことをいつも考えているんだなあ、と思ったんですね。特異な想像力の持ち主だと思いました。
森高夕次
ただ、あまりにも話が突飛すぎると思うんですね。意味がわからないなりにも、アクションがあったりすれば、頑張って描こうとする意志は伝わってくる。ただ、この作品にはあまりそれが感じられませんでした。クオリティが高いか低いかで言えば、高いとは思う。ただ、どう頑張ったとしても、「モーニング」本誌でデビューするところが想像できないんです。だったら、少しレベルが低くても「モーニング」に掲載できる可能性がありそうな作家さんを残すべきだったのかな、と思いましたね。
モーニング編集長・島田
もっときつく絞ってもいいかもしれない。ただ、新人はどう化けるか本当にわからないんだよ。『グラゼニ』のアダチケイジだって「モーニング・ツー」がなければ今はないと思うし。
東村アキコ
だいたい、1コマめの「××××年」ってところにやる気が感じられませんでした。漫画描く気があるのかよって!
一同
(笑)。
事務局員・高橋
いろいろと課題があると思うので、これからじっくり打ち合わせをしていこうと思います。ありがとうございました。


MANGA OPEN事務局員プロフィール

事務局長・三村
太り過ぎによる体のほてりに耐えきれず、机の上で扇風機を強風で回しており、前髪が常にイイ感じでなびいている、カッコいい事務局長。
奥村
GOLDGYMに通いつめる、いわゆるイケメン編集者。着こなしがオシャレすぎて、謎のアイテムを首からぶら下げたり、ソデからひらめかしたりしている。
剱持
未開の地グンマー出身のくせに、編集者となったグンマー希望の星。ダイエットで10kg体重を落とした際に服を購入してしまうという致命的なミステイクで、現在着る服がほぼない。
水野
身体を壊していたが、見事な摂生によって華麗に職場復帰。……したかと思いきや、アメリカ出張で、元の木阿弥に。最近もカルボナーラの食い過ぎで医者から二枚めのイエローカードをくらう。
上甲
「今まで風邪をひいた事がない」のが唯一の自慢の健康バカだったが、子供ができたとたん、溺愛のあまり続々とウイルスをもらう不健康親バカになった。
駒木根
女だてらにMANGA OPEN事務局イチの豪胆さを誇る一方で、可愛いものに目がなく「このキャラ可愛くないですか?」と可愛いを強要するハラスメント(カワハラ)をしてくる。
柳川
豪胆さとは真逆の慎重さを誇る女子編集者。しかし、恋にだけはエキセントリックで、彼氏と地元の街を全力疾走する一面も。
関根
自分の口癖が「ヤバい」であることに、最近まで無自覚だったホントにヤバいギャングース。「把瑠都」とでっかく描かれたTシャツをさりげに着こなし、編集部を騒然とさせた。
寺山
いいとこの坊ちゃんだが、酒で身を持ち崩そうとしている。毎日の酒量の多さゆえか、深夜に過剰な食欲に襲われ、大盛りカップ焼きそばをすするなどの異常行動をとる。
高橋
コピーすらまともにできない、ゆとり世代が生んだ期待のニューカマー。悩みすぎると金田一耕助ばりに頭をかきむしりだすが、問題は一向に解決していかない。

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