【文字数注意】清野とおる『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』、今週のモーニングに登場の「チーズグラコロの男」が再び送りつけてきた偏愛熱烈コラム&挿絵を“強制公開”!

2017/05/12 21:00

おこだわりニュース] [モーニング本誌情報

マクドナルドが提案する、定番バーガーに各種トッピングをすることで、「裏メニュー」を作れる新サービスが好評を博していますが、さかのぼること数年前から、今は亡きメニュー「チーズグラコロ」の復興に命を懸けてきた「おこだわりびとの勇者が、「チーズグラコロの男」です。

去る4月、突如編集部に「偏愛熱烈コラム&挿絵」を送りつけてきやがったのは記憶に新しいところですが(その“公開処刑”の模様はコチラ)、なんとその舌の根も乾かぬうちに、第二弾となる「後編」を送りつけてきました。

今回は郵送ではなく、以前清野とおる氏のTwitterに晒されたことのある『おこだわり』担当編集者のメールアドレス宛て! しかも、「後編」と題された新作コラムの文字数は1万字を超える超ボリューム!! 「チーズグラコロの男」の鬼気迫る“本気”を感じましたので、ここに“強制公開”させていただきます!

ただいま発売&配信中の「モーニング」「週刊Dモーニング」24号に掲載されている『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』月イチ連載最新話、「チーズグラタンコロッケバーガーの男」後編と共に、どうぞお楽しみください。ただし、以下のコラムは1万字を超えます。ご注意ください。



2016年10月。
「チーズグラコロ」の復興を清野氏と誓った春以来、僕の心には、ずっと「さくら」が咲いている。

「会いたいな……」
「会えないな……」
「切ないな……」
「この気持ち……」

僕はあんなに聴いていた大森靖子の歌はいっさい聴かなくなり、「ジャンプ、spring、smartなうた」……いや、「CLAMP、レリーズ、なかよしな歌」……、
正直に言うと、『カードキャプターさくら』の歌ばかりくちずさむようになっていた。
なぜなら、僕は今……、
「コ・イ・シ・テ・ル」

片思い中の女子の名前は……そうだな、「憂子」とでもしておこう。

なぜ憂子かというと、彼女が講談社主催の新しい女の子発掘プロジェクト「ミスID」のオーディションで、「LED ZEPPELIN」の『BLACK DOG』(憂鬱)を流しながら月曜日の朝の憂鬱を演じたが、誰にも伝わらなかったと憂えて帰ってきた女の子だからだ。

憂子との出会いは春までさかのぼる……。
あの日、清野氏の「おひきだし」を受けて以来、僕のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=人生の質)はハイプして、生きる気力にみなぎっていた。
「チーズグラコロ復興」の方程式を導きだした僕は、新たな挑戦を試みていたのだ……。
そう、恋の方程式である。
駆け引きをしても割りきれない「ため息」の方程式への挑戦である。
「キッスから始まる恋をするんだ……」
と言ったところで、「自転車通勤のガールズバーのキャスト」以外との出会いなんて皆無な僕になにができるのだろう……。

まずはTwitterで、かわいくてセンスが良く思慮深いファンが多そうな、「大森靖子」、「ミスID……主に水野しず等」、「宮崎夏次系」界隈をフォローしている女子を片っ端からフォローするところからはじめてみた。
今にして思えば本当に最低だ……。

あまりに残念な方程式の解き方に、あの失恋続きのチャーリーブラウンさえも「SIGH」とおなじみの「タメイキ」をもらしているに違いないだろう。
結果、タイムラインが混沌(カオス)になってしまった…

僕は、誤ってフォローしてしまったセンス溢れる情報量の多い人達を傷つけないように、申し訳ない気持ちでミュート設定をしていると、自身をムーミン童話で愛を与えてもらうことができずに、身体が透明になってしまった少女「ニンニ」に投影したつぶやきをしている女子を発見した。
そう、憂子だ。

まあ、今思えばニンニのような女子が「ミスID」に応募するだろうかと思うのだが……いや、そういう人こそする企画なのだろう……。

ムーミン童話を読んで育った僕は、彼女が気になって仕方なくなり、半年にわたって定期的に「お気に入り」や「空リプ」を繰り返すという『ごん狐』のような活動をとおして、吉祥寺「COFFEE HALL くぐつ草」で「カップトースト」の「カレーミート」と「たまご」をシェアして食べる間柄になっていたのだ。
そして、手をつないで憂子を、吉祥寺駅まで送る間柄になっていたのだ。
これは、どういう間柄なのだろうか……。

「言えないの……」
「言いたいの……」
「チャンス逃してばかり……」

NHKが推奨する小四の少女のような恋をしてしまった……。
そう、僕は「木之下桜(カードキャプターさくら)」

話を戻そう……。
吉祥寺駅で彼女を見送った後、左手に彼女が残していったオーガニックハンドクリーム(「ジュリーク」のローズ)の残り香を嗅ぎながら見上げた空は薔薇色に染まっていた……。

「今年の冬は、彼女と『チーズグラコロ』食べてみたいな……」

「チーズグラコロ」はまだ齧っていないのに、僕は幸せを噛み締めていた……。
世界で、一番、一番、一番、一番……
「コ・イ・シ・テ・ル」


2016年12月8日
今日は待ちに待ったグラコロシリーズの発売情報解禁日……。

連日のマクドナルドへのしつこい問い合わせにより、誰よりも早くその情報を入手していた僕は、「小沢健二」よりも「強い気持ち・強い愛」を持って、マクドナルドキャストを「Stand up、ダンスをしたいのは誰?」と誘い出したくなるくらい浮かれていた。

「Fu(ふ)Fu(ふ)Fu(ふ)……」
「Fu(ふ)Fu(ふ)Fu(ふ)……」

憂子への「ごん活」(ごん狐活動)も継続しており、今では銀座「喫茶YOU」で二人で一つのオムライスを食べたり、藤沢の純喫茶「ジュリアン」で桃色と緑色の「ペアソーダ」を二人で飲んだりするデートを繰り返す仲。
そして、なんと今、僕と憂子は、阿佐谷のカフェ「喫茶gion」のloveい男女しか座りたがらない、あの一席限定の「ブランコ席」で空色のクリームソーダを飲みながら「空をマラソン、夢をユニゾン」中なのである。

この日、「グラコロ復活」に浮かれた僕は、ある決意をしていた……。
名づけて汚家おうちにキテレツはじめてのチュウ作戦」である。

作戦内容はこうだ。
まず、1986年のフランス映画『汚れた血』を一緒に観ないかと自宅に誘う。

普通の映画なら、下心目的とされてしまうところだが、僕の選んだ映画は『汚れた血』……。愛の無いsexで感染する奇病STBOが蔓延するパリを舞台にした映画である。
映画好きな彼女は、タイトルを聞いて悟るだろう……。
なんてセンスのいい人、そしてこんなチョイスをしてくる人なんだから、愛のないsexはもとより、映画の内容ゆえに私が嫌がるようなことは絶対しなそう……。
『はじめてのチュウ』を歌っていた「あんしんパパ」より安心……。
「なぜか優しい気持ちがいっぱい……」
「きゃっ」
「されちゃった……」
「……はじめてのチュウ」

まさに、完璧な作戦だ。

「憂子ちゃん、これから家で『汚れた血』を一緒に観ない?」
(どうだ、どう出る……)
餌[レオス・カラックス]は撒いたぞ……)
「うーん……」
(食いつけ! 食いつけ!)
「……」
(おまえの好きなフランス映画だぞ……)
(ここは心を「レリーズ」[解放]するところだろう……)
「……」

長い沈黙が続き、僕の「カードキャプターさくら色」な日々は、急遽三期にさしかかってしまい、僕の世界の構成要素も変わってしまった。
そう、僕の世界は「夢と恋と不安で、出来てる……」

(「不安」……嫌な予感がする)
「……」
(もったいぶりやがって、ノーベル文学賞受賞時のボブ・ディラン気取りですか……?)
「カラックス好きな人を嫌いになるとは、思えないけど……」
(食い付いた!)
「ね…?」
(結局もらうんだろ?)
(ボブ・ディランみたいにさ……)
(君も、僕のノーベル賞「愛」を……)
「映画は独りで観るものじゃん……」
(えっ……)
「だから、普通に無理無理。てか、終電無くなりそうな時間に映画誘うのとか無視無視」

「思考回路はショート寸前」「ハートは万華鏡」である……。

「帰るね」

僕は、「喫茶gion」のブランコ席に独り残され、僕と彼女の「なかよし」の連載は終了した。

「Stand up」
「不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまったのは誰?」
「Fu(不運)、Fu(不運)、Fu(不運)……」「Fu(不運)、Fu(不運)、Fu(不運)……」

そう、僕である。
気がつくと、僕は阿佐ヶ谷駅のホームで大森靖子の『呪いは水色』を聴きながら、目の前を通過する中央線に唾を吐きかけていた。
「まどろめ、阿佐ヶ谷……」
半殺されたQOL(人生の質)に大森靖子の歌が、マークロキュロム(赤チン)のように紅く染み込んでいく……。
「『ポンヌフの恋人』のようにはいかないな……」
「女なんて いらない……」
僕には、「チーズグラコロ」がまだ残ってるじゃないか……。
「大丈夫……」
「『グラコロ』シリーズの発売情報でも確認して未来をImagineしよう……」

剃毛6日目のすね毛のように刺々しくなった自律神経をなだめるべく、マクドナルドのホームページを開く……。
「えっ……」
僕は、リニューアルオープンに際して、壁全面を解放し、おしゃれな落書きスペースを設けたのに、「ロビンマスク」の落書きをされてしまった「マルタンマルジェラ仙台」のスタッフのように言葉を失ってしまった……。

なんと、「グラコロ」は、すべてをリニューアルした「超グラコロ」として生まれ変わるのだという……。
「スパイス感がアップした芳醇な味わいの特製コロッケソース……隠し味にチェリーエッセンスだと……」
あの頃のままでいいんだよ!
童貞の恋愛戦略みたいな独りよがりな販売戦略してきやがって……。
しかも、「チーズグラコロ復興」の切り札「ハムタス」の販売もいつの間にか終了しているじゃないか……。

こんなの、TBSの昼のドラマ『キッズ・ウォー パート5』の冒頭で、制作サイドの都合なのか、交通事故にあって出番がなくなった父親役の川野太郎(グラコロ)と母親役の生稲晃子(ハムタス)、そしてその後、なぜか幽霊としてちょい役で再登場した川野太郎(超グラコロ)みたいじゃないか……。
まさに「ざけんなよ」である……。

僕は、終電を無視して阿佐ヶ谷駅を飛び出し、北口の「バーガーキング」へ入り「ダブルワッパーチーズ」と「ハイネケン」をオーダーした。
「Imagineできねえ……Let it beでよかったんだよ……」
ハイネケンを一気に飲み干すと、唐突に虚無に襲われた。それはまるで死のように僕から全てを奪っていった……。
1980年の冬に、5発の凶弾に倒れたジョン・レノンのように、マクドナルドの5年に及ぶ5発の凶弾に襲われた僕の心の「チーズグラコロ」が今年も暗殺されたのだ……。

僕は、バーガーキング(ダコタハウス)の階段をふらふらと5歩登り崩れ落ちた……。
「I'm shot(撃たれた)……」
「I'm shot(撃たれた)……」



奇しくも、マクドナルドが「グラコロ情報」を解禁し、5度目の「チーズグラコロ暗殺」を謀った今日12月8日は、ジョン・レノンがマーク・チャップマンに暗殺された命日でもあった……。
僕は、LOC(意識消失)しかけながら、キューブラー・ロスが唱えた死の受容のプロセスを踏んでいた……。
「どうして純真無垢な僕がこんな思いを……何かの間違いだろ……?」
第一段階「否認」である……。

「それなら、誰のせいだ?」
「憂子か? マクドナルドか? いや……」
「ぜんぶ清野のせいだ……」
「こいつに出会わなければ、こんなに『チーズグラコロ』にアガって傷つくこともなかった……」
「それに、失恋だって……」
「たしか、憂子は宮崎夏次系のファンだったし、『ミスID』にも応募してた……」
「はっ……」
『おこだわり』といい、宮崎夏次系といい、「ミスID」といい、『カードキャプターさくら』といい……全部、元締めは同じ…、
講談社のせいじゃないか……。
「……畜生」
「講談社の野郎……‼」
第二段階「怒り」である。

あの晩の事は、色々ありすぎて、これ以上話したくない……。
僕が、阿佐ヶ谷からどうやって家に帰ったかなんて事は、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』でも読んで汲み取ってほしい。
クリスマス前に退学になってペンシルヴェニアの寮から、生まれ故郷のニューヨークまで放浪したホールデン・コールフィールドの色々と、きっと変わらないだろうから……。

あの晩、死の受容第三段階「取り引き」~第四段階「抑うつ」のプロセスを踏みながら家へ帰った僕は、今の僕には、夢(チーズグラコロ)も恋もないと悟り、第五段階「僕らの暗殺の『受容』」にたどり着いたのだ。
そして、学校に青春はないと悟った学生時代のように、録画した夕方枠のEテレの海外ドラマ『素晴らしき日々』や『Full House』に自身を投影し現実逃避に走る、QOL(人生の質)を暗殺された毎日をやりすごす日々が始まったのである。


2016年12月14日。「グラコロ」シリーズ発売開始日。
前日に、会社に大切な人(チーズグラコロ)が死んだと告げた僕は休暇をもらい、優しい気持ちで目覚めていた。
「優しい気持ちで目覚めた朝は、大人になっても奇跡がおきるんだ」
「そう、僕は、キキ。」
マクドナルド(ジジ)の声が聴こえなくなった危機(キキ)……。

昼下がり、家で録画した海外ドラマ『素晴らしき日々』の第37話「シラノも言えなかった一言」を観ていると清野氏から呑気なLINEが送られてきた……。
「グラコロ、ついに販売開始されましたね!! 早く一緒に買いに行きましょうよ!!」
馬鹿かこいつは……こちとら、「チーズグラコロ」の暗殺はとっくに「受容」してんだよ……傷口に塩を塗りやがって……。
「死にてっす」
僕は、シラノも言えなかった一言を送りつけてやった!

「どうしたんですか!? 何かあったのですか!?」
「死にてっす」
さらに、「一言多いよ……シラノ君」も送りつけてやった!

その後も清野氏からの着信は何度かあったものの、僕は人生最大のキキ……トンボの優しさは2度目まではシカトなのである。
「ふて寝でもしよう……」
独りで寝るのも寂しいので、「チャラン・ポ・ランタン」の「小春ちゃん」に見立てた床と添い寝をすることにした。

どれくらいたっただろう……床(小春ちゃん)が冷たくなっている……潮時かな……。
人影がぼんやり見えるなんて……。
ていうか、人影「清野氏」だし……悪い冗談である。
目覚めが悪いので、もう一度寝ようとすると叩き起こされた。
本当に清野氏がいた……。
僕を心配して駆けつけてくれたのだという……。

その後、事情を知った清野氏は、すべてを失った僕に色々言って励ましてくれているようだが、ジジの声が聞こえなくなったキキのように、あの時の僕の頭にはさっぱり響いてこなかった。
こんな時、キキはどうしたっけ……。
確か絵描きのウルスラが遊びに来たんだっけか……。
でも、僕の目の前にいるのは、漫画描きのうすらバカ……。

僕は清野氏を疑っていたのだ……。
なぜなら、清野氏が卵アレルギーであることを、雑誌「酒場人」の連載のなかで知ってしまったからである。
「チーズグラコロ復興」とか言っておきながら、どうせ食べもしないのだろう……。
だって、「チーズグラコロ」のタルタルソースには卵たくさん入ってるし……。

「清野さん、これ見てくださいよ」
僕は、ポケットから変形した「メルティーキッス」を取り出した。
「こないだ、大森靖子のワンマンコンサートに行ったんですよ……」
「斜め後ろに背の小さな可愛い女の子がいて……こんな時のふとした会話のきっかけを作るためにポケットに『メルティーキッス』を忍ばせてたんですが、声なんてたやすくかけれなくて……頑張ったんですが、『こっちの方が観やすいんで代わりますか?』くらいしか言えなくて……」
「で、帰り際に『可愛い女の子』からお礼を言われたりしたんですが、緊張して『良かったです』くらいしか言えずにトイレに逃げ込んで……みんなが楽しそうに打ち上げに向かう中、独りお台場の「クア・アイナ」で「アボカドバーガー1/2LB」を貪り、己を汚してやったんです……」
「その間、終始握っていたのが、この変形した『メルティーキッス』なんですよ……」
「『グラコロ』のリニューアルなんて、この劣化した『メルティーキッス』みたいなもんですよ……全部裏目の失敗作!」

「ぽかん」としている清野氏に向かって劣化した「メルティーキッス」を勢いよく投げつけると、「空に吐いた唾」のように、壁にぶつかった「メルティーキッス」が僕に向かって飛んできた……。
「いてっ」
下唇に前歯を突き立て、笑いを噛み殺す清野氏……。
「畜生ー!!」
こんなもの、こうしてやる!
僕は包みをあけ、変形した「メルティーキッス」を噛み殺してやった。
「……」
「あれ……」
「……おいしい」
(心なしか前よりも少しおいしく感じる……失敗作じゃなかったのか……?)
(いや、まてよ……この劣化した「メルティーキッス」は……もしかしたら僕が誰かを思って温めた素敵な心温まる進化なんじゃ……現に席を譲った女の子にもちいさな幸せをあげてるし……)
(「グラコロ」のリニューアルも、そういうことなんじゃ……)

「いつまでも過去に縛られてうじうじうじうじ!! 情けないったらありゃしない!!!」
マクドナルド(ジジ)の言葉がやっと聞こえるようになった……。
きっかけをくれてありがとう……清野氏(ウルスラ)
この人の前ではいつだってイエスマンでいよう……。
そう心に誓った。

「清野さん、実は『チーズグラコロ』の復興の最後の切り札……僕はずっと隠し持っていたんです……」
「でも、この方法はどうしても避けたかったんです。なぜなら…マクドナルドを全否定する方法だからです……」
「名付けて、『バルス』
「その方法とは……マクドナルドの看板商品『ビッグマック』からメインのパティ全部と、その他もろもろを引っこ抜いてしまうという、マクドナルド全否定の悪魔の所業……『マクドナルド・アイデンティティー』に対する滅びの呪文……」

「やれますか……?」
清野氏(パズー)僕(シータ)は手を握り、ゆっくりとうなずき、禁断の呪文を唱える……。
「バルス」
僕らの「マクドナルド・アイデンティティー」は涙と一緒に崩れ落ちた気がした。

「よし!! じゃあもう早速買いに行っちゃいましょう!!!」
清野氏が、鞄から取り出したものをみて驚愕した。
「ドナルド」の衣裳である。
「……」
(この人はバカなんじゃないだろうか……)
早くも前言撤回である。
(こんな駆け出しyoutuberみたいなことを、漫画の取材の為に30過ぎたおっさん二人でやろうとするなんて……)
(『天空の城ラピュタ』のドーラの部下くらい馬鹿じゃないんだろうか……)

だが、僕はイエスマン。
40秒で支度すると、清野氏とともに「ドナルド」の格好でマクドナルドへ向かった。
突き刺さる痛い視線……隣人、大家に見つかった場合の信用問題……色々最悪だ。
清野氏は、いくら他人の街だからといって、どうしてこんなに楽しそうに歩けるのだろう……。
まるで、「第七感(セブンセンシズ)」に開眼した「ブロンズセイント」みたいじゃないか……。

僕はというと、仕事関係者にみつかれば確実に職を追われてしまう一大危機……。
荒川を虎を乗せたボートで下るパイ・パテルのようなものである。
まさに『ライフ・オブ・パイ』。
もし、クビになったらどうしよう……。
講談社にタカって生きてはいけないだろうか……。

そんなことを考えながら歩いていると、かわいらしい女子中学生二人が話しかけてきた。
「一緒に写真とってもらえないですか?」
「いいですよ(笑)」
笑顔で答える清野氏(ウルスラ)……。
勘弁してくれ……。
仕事関係者の子供だったら、完全に“社会死”だぞ……。
言い訳は、どうする?
そもそも、今日は大切な人(チーズグラコロ)が死んだと言って会社を休んでいる身分……。
やめてくれ、もう、やめてくれ……。



あまりに悲惨な体験だった。
たかだか15分程度の出来事なのに、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作くらいの長さに感じてしまう……。
頭がガンガンする……。
どうやって帰ってきたか覚えていない……。
気付いたら、滅びの山に指輪を捨てに行った後の「フロド・バギンズ」くらいの疲労感でマクドナルドの「クリームソーダ」に「宝焼酎」を混ぜて飲んでいた。

憔悴した空気の中、清野氏がつぶやく……。
「いよいよですね……」
「……はい」
僕と清野氏は、震える手で「バルスされたビッグマック」からチーズを取り出し、「超グラコロ」に挟んだ……。
5年越しの夢……「チーズグラコロ復興」を遂げたのだ。
たまらず、その「超チーズグラコロ」に一口かぶりつく。
感想の言葉が生じる前にまた、かぶりつく。
どうしてだろう……止まらないのだ……。
その味が伝わる前に、今までの想いや感情が押し寄せてくる……僕は、思い出を食べているのだ。

半分ほど食べたところで、やっと美味しさが口中に溢れだしてきた……。
「おいしい……」
全面リニューアルしたはずの、「超グラコロ」なのに、どうしてこんなにも懐かしい味を生むんだ……。
「Everywhere You Look……」
隣に目を向けると、なんとあの卵アレルギーの清野氏が「超チーズグラコロ」に貪りついていた……。
「なんて、優しい人なんだろう……」

僕は二度目以降に食べる料理は、その思い出も一緒に食べるものだと思っている……。
今日のこの「超チーズグラコロ」の味を僕は、生涯忘れることはないだろう……。

その晩、清野氏が帰ってから、もう一度「超グラコロ」と「ビッグマック」を買いに走った。
懐かしさの正体が知りたかったのだ……。
あらためて、「超チーズグラコロ」を一口咀嚼して、やっとその懐かしさの正体がわかった。
「チーズグラコロ」は、アメリカドラマ「Full House」なんだと……。そして……「超チーズグラコロ」は、「Full House」のその後を描いた「Fuller House」なんだと。

片面トーストがマクドナルドのバンズの主流のなか、生クリーム入りのバンズをスチームで仕上げ、ミルキーなバターの幸せな薫りでみんなをふわ~っと包み込む、成長したDJ(バンズ)
サクッとした薄い衣でグラタンを包んだ、とろ~っと心ごとほどけさせる、ずっとかわらないダニーとジェシー(クリームコロッケ)
外縁のシャキシャキした食感から、中心に向かってコロッケの熱でほんのりあま~く熟成された、あの頃のままの温もりに抱かれたジョーイ(千切りキャベツ)
卵黄の割合を増やして、こってり、ぼってり、あま~くてやさしい笑顔を引き出す、成長したステフ(濃厚タルタルソース)
ビネガーやスパイスの分量を増やしてチェリーエッセンスをほんのり残しながら成長したスパイシーなキミー(コロッケソース )

食べる前には正直3人、DJ(バンズ)、ステフ(タルタルソース)、キミー(コロッケソース)の成長は望んでいなかった……。
特にチェリーエッセンス入りのスパイシーなソース!?
僕は、捨てるまでに20年もかかったし……。
そんな変化いらない。「あの頃のままでいいだろ?」と思っていた……。

でも、やっぱり僕の間違いだった……。
だから捨てるまでに20年もかかってしまったのだ……。
3人の過剰と思っていた成長は、お互いの良さを引き立たせるような、弱点を補いあうような、それでいて、みんながちゃんと幸せになる成長だったのだ……。

[バンズ(バターの薫り)×タルタルソース(こってり濃厚なあまみ)×コロッケソース(酸味、スパイシー)のそれぞれを最大限に活かす相乗効果]

あの頃の『Full House(チーズグラコロ)』を知っている僕は、3人の嬉しい成長に胸が熱くなってしまった……。
そして、すべての味をƒƒ(フォルティッシモ=非常に強く)してしまう魔法のチェダーチーズ(ミシェル)……。

いや、待てよ……。
『Fuller House』にミシェル(オルセン姉妹)は、まだ未登場……。(5月8日現在)
これは、僕が「超グラコロ」(340円)より高いギャラを払って「ビッグマック」(370円)からチェダーチーズのみを引っこ抜いてきたように、「ネットフリックス」がファッション業界へ転身したオルセン姉妹を多額のギャラで引っこ抜いてくる暗示に違いない……。

話を戻そう。
兎にも角にも、「超チーズグラコロ」は『Fuller House』だったのだ。
「清野氏、ありがとう……」

清野氏と「チーズグラコロ」の復興を成し遂げた2日後、僕は故郷石巻市にいた。
震災後に体調を崩し、入退院を繰り返していた、大好きだった祖父が亡くなったのだ。
宮藤官九郎の大抵の脚本同様、明るかった話の後半にかけて「急に誰かが死ぬ」という、シリアスな展開をぶっこんでしまったわけなのだが、現実なので仕方がない……。

通夜の晩、小腹のすいた僕は、マクドナルドへと車を走らせ「ビッグマック」のパティ全部とその他もろもろ抜き(「バルス」)と「超グラコロ」と「マックフライポテト」と「クリームソーダ」を買った。
葬祭会館に向け車を走らせていると、カーステレオから、「Rei」の『eutopia』が流れてきた。
飼っていた兎について書いた可愛らしい歌なのだが、僕には祖父との思い出に重なり、車が運転できなくなってしまい途中で停車した。
ガストの駐車場で、クリームソーダのクリームをディップしたポテトを齧りながら、祖父の事を思い出す……。

フライドポテトは、祖父の好物だった。
そういえば、祖父に一度「チーズグラコロ」を食べさせた事があったっけ……。
「こんなの、はじめて食べたよ。なんて言う食べ物なんだ?」
祖父に食べ物の名前を聞かれたのなんて、これが最初で最後だった……。
「もう一度食べさせてあげたかったな……」
心の奥に引っ掛かっていた、「チーズグラコロ」を復興したかった本当の理由がわかった気がした……。

僕は、実家へと車を走らせ、祖父の部屋へ入った。
テーブルの隅には、手付かずの日本酒の瓶が置いてある……。
運転中、ずっと隣に感じていた祖父……。
ずっと帰りたかった自分の家で、酒を呑みたかったのだろう……。
僕は祖父と一緒に「超チーズグラコロ」とフライドポテトを肴に酒盛りをはじめることにした。

「……」
酒瓶を手にとって、僕は気付いた……。
「一ノ蔵ひめぜん」……度数の低いこの酒は、祖父ではなく、僕が好んで呑んでいた酒だ……。
製造年は数年前だった……いつか帰郷した孫と一緒に呑むつもりだったのだろう……。
「ごめん……」
窓をあけると、復興された街灯りが前よりもキラキラ輝いていた。

翌日、葬祭会館に戻らなかった僕は、親戚たちの前で両親にこっぴどく叱られた……。
祖父と“悪い”酒を呑んでいたと言いたくなったがやめた。
だって、祖父が叱られている僕を眺めて笑っている気がしたから……。
葬儀が終わり、親戚の運転するセルシオの中で僕は、祖父をもう一度笑わせてやろうと決心したのだが、今の僕をみて笑ってくれているのかな……?

思えば、この数年で色々なことがあった。
本の世界にしか逃げ場のない危機にたたされた僕(バスチアン)は、なんと本当に本(『おこだわり』)の世界で冒険させてもらえることになり、今はエッセイもどきを描きなぐり講談社へ送りつける魔法使い見習い(キキ)に……。

そろそろ僕は、本の世界を飛び出し、ポケットに「メルティーキッス」を詰め込んで、好きな音楽でも聴きに行こうと思います……。
もし、大森靖子やチャラン・ポ・ランタン、Rei(五十音順)あたりのコンサートで、「メルティーキッス」をくれる人がいたら、それは僕なので優しくして下さいね……。
冷たくされると落ち込みます……。

でも、大丈夫……「僕はキキ」。
「落ち込んだりもするけれど、わたしは元気です……」
つ・づ・く……。



以上です。前回に続く、長文を読む&見る行為、おつかれさまでした。最後に「つづく」の文字が記載されておりましたが、編集部の判断で削除しておきました。

「チーズグラコロの男」、今回はいろいろとお世話になりました。そして、「一生さようなら」!

次回の清野とおる『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』は、6月8日(木)発売&配信開始の「モーニング」「週刊Dモーニング」28号に掲載予定です! ご登場いただく「おこだわり人」は「▲▲▲▲の男」。伏せ字の理由は、本編で明らかになる予定です▲ ご期待ください▲▲

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週刊Dモーニング2017年38号
2017年08月17日配信
スマホ版モーニング月額500円で配信中

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モーニング・ツー

モーニング・ツー

モーニング・ツー2017年9号
2017年07月22日発売
定価:本体546円(税別)
発売中

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