【新人賞】 第67回ちばてつや賞、最終選考の議事録を公開!

2015/06/11 00:00

ちばてつや賞] [新人賞

ちばてつや賞一般部門の最終選考は、ちばてつや先生をお迎えして行われます。

時間をかけて一作一作丁寧に読んでくださったちば先生のコメントを聞き、その上で作品の担当編集は、自分の担当作品をちば先生にアピールします。

そのほかの各編集部員は、疑問点などをちば先生に質問。活発な議論が交わされます。


『ぬめぬめして』
水越翔大みずこししょうだい(京都府・26歳)


モーニング・ツー編集チーフ・三村 私が担当です。以前、初めて描いた漫画『葉緑体人間』を2014年第36回MANGA OPENに投稿し、奨励賞を受賞しました。その時に比べると、飛躍的にクオリティが上がっていると思います。

ちば先生 しわだらけでうつろな目をした吸血鬼が凶暴な性格だったんじゃなくて、人を噛んで吸血鬼にしたくないから、「殺してくれ」と通じない言葉で必死に言っていたんだね。主人公も吸血鬼になってしまうんだけど、山奥に入って人に危害を加えないようにしましたよね。そういうところは二人とも健気というか、優しい吸血鬼だと思いました。読んでいてとてもいい気持ちになれた。

モーニング編集長・島田 画力も演出力も、前作とは比較にならないほど上がっているよ。

モーニング・ツー編集チーフ・三村 気になるところはありましたか?

ちば先生 国家機密の研究をしている建物がプレハブみたいで安っぽく見えてしまった。誰も入れないような高い塀があって、地下への階段を降りていくと格子戸があって、それを潜り抜けると吸血鬼がいる……というような雰囲気がほしかった。他にも、血液で感染するのに、冒頭で医者が血まみれになっている描写があったりして、設定に甘いところがあったのは残念。舞台をしっかり作り込んで、血の臭いや糞便の臭いが漂ってくるようなリアルさがあれば、読者はもっと引き込まれたと思います。






『誰も知らないブルース』
糸吉了一いとよしりょういち(千葉県・24歳)


編集部員・O道 担当です。いじめや男女差別など、自分の中で描きたいテーマをはっきり持っている方です。他誌でも受賞歴があるのですが、自分の作品を読んでもらえる場所がどこかを探していて、ちばてつや賞なら、と今回投稿してくれました。

ちば先生 お話の内容はとても良かったですよ。ただ、せっかく踊る話なのに、ダンスシーンがほとんど出てこない。特にクライマックスでは、主人公二人が衣装を入れ替えて、女は男に、男は女になりきって踊っている絵をちゃんと見たかった。それを見た周りのみんなが「おお!」って口に出してしまうような瞬間を、絵で見て感じたい作品なんだけど、それが抜けちゃっているところが残念だったね。それと、この二人が役割を入れ替えたらうまくいくというストーリーが、読んでいる途中でわかってしまった。一見、どうやってもうまくいかないように見える二人が、ちょっと発想を変えることで、うまくいく。「何も男が男である必要はないんだ」という結論が見える。その発見に感動しつつ、最後のダンスで拍手をしたかった。それができなかったことに、少しもどかしさを感じました。

ちば賞事務局長・田渕 編集部内でも、見せ場や盛り上げどころを作った方が良いのでは? という意見がありました。上手だな、とは思うのですが、上品すぎたりうますぎて、印象に残らないところもあるのかもしれませんね。

編集部員・O道 他に何か気になったことはありますか?

ちば先生 顔の表情はとてもいい。だけど、絵にあまり動きがなくて、棒立ちになってしまっているシーンが多いですね。たとえば机を運ぶときに、細くて力の弱い男が持つとどういう姿勢になるか、という身体の演技をしっかりつけてほしかった。机だって、無理に引っ張られたら抵抗するように、ガリガリ音を立てたりしますよね。そういうところにも気が付くと、絵がより生きてくると思います。






『終電ちゃん』
藤本正二ふじもとしょうじ(神奈川県・32歳)


ちば先生 ちょっと質問なんですけど、この電車の上に乗っている「終電ちゃん」はこの物語の中では実際にいるんですか? 終電が来た時に、それに間に合った時に思うありがたさの象徴みたいなものなのかな、と思って、少し迷ってしまいました。でも、電気が消えた後、電車の上に布団を敷いて寝たりしていますよね。

ちば賞事務局長・田渕 「終電ちゃん」は実在しています! 編集部でもみんな最初は戸惑いつつ、読んでいるうちに引き込まれた人が多いみたいです。最近、擬人化漫画って流行っているんですけど、この作品はその枠からもはみ出した、新しいジャンルだと思います。

編集部員・T山 担当です。これを描いたのは、朝から夜遅くまで働く営業職のサラリーマンの方で、仕事の合間を縫って、終電に揺られながらこの漫画を考えたそうです。終電というものをキャラクター化したら面白い、という発想からスタートした作品で、この漫画に出てくるのは中央線の「終電ちゃん」ですが、山手線など路線ごとに「終電ちゃん」がいて、「終電ちゃん」同士や駅員さんとの関わりから生まれる物語など、いろんな構想があるみたいです。

ちば賞事務局長・田渕 絵とかコマ割りとかについてはいかがですか。

ちば先生 プロ級の腕を持っていると思います。キャラクター、背景、コマの割り方、演出、どれもたいへん優れていますね。

モーニング編集長・島田 毎日電車で帰っているサラリーマンにとっては終電への特別な思いがあるんだろうね。終電の神々しさというか(笑)。電車に乗って会社に通っているモーニングの読者には共感を呼ぶのかな。

ちば賞事務局長・田渕 ちょっとでも遅れたら乗せないよといいつつ、必ず来てくれるというツンデレ感は、終電にお世話になっている身としては「なるほど」と思いますね。

ちば先生 読者も、そういったところは楽しんで読めると思います。「終電ちゃん」の存在感について、迷わせないような描き方ができたら、あとはもう言うことがない。「終電ちゃん」以外のキャラもちゃんと描けていて、読者をこの世界にうまく引き込んでいると思います。






『優等生の問題』
和山わやま友彦ともよし(東京都・20歳)


編集部員・T幸 最終選考から担当させていただいています。漫画学科に在籍する大学生で、学校の課題で「水」というテーマで作品を描けと言われたので、この作品を描いたそうです。本人は『稲中卓球部』などヤングマガジンのギャグ漫画が好きで、男の子同士がわちゃわちゃする作品を描きたかったそうです。

ちば先生 「水」という課題だったんだね。その話は今初めて知ったけど、それをここまで膨らませるのはすごいね。でも、水を主人公の性格が変わるスイッチにするのは難しいと思った。たとえば、水って拭いたってなかなか取れないんですよ。作中にも生乾きをネタにするシーンがあったけど、表現するのが難しい。出だしの、雨が降っているのにわざわざ出て行くっていうシーンも、やや不自然に見えた。水に濡れたらどうなってしまうか、当人たちがわかっているはずだし、「なぜ無理やりにでも止めないの?」って読者も思ってしまう。月を見ると急に人が変わるとか、ハンドルを握ると豹変するとか、もっとわかりやすいスイッチの入り方は、身近なことで他にいくらでもあったはずなのに、課題の「水」のまま持ってきたのはちょっと安易だったかな。その辺で少し無理を感じたんですよね。ただ、この人の絵には、なんともいえない耽美的な、湿っぽい男の色気みたいなものを感じるんだよね。この人はこういう、独特の面白い世界を持っているんじゃないかという期待感はあるんですよ。

ちば賞事務局長・田渕 編集部内でもそこを推す人が多かったです。キャラクターに色気があるし、作者がこの主人公のことをすごく好きなんだろうなというのが伝わってくるというか。

モーニング編集長・島田 絵は異常にうまいな。ストーリーは安易だけど、「水」と言われただけでここまで話を作ったのだとしたら、すごいのかもしれない。

編集部員・K林 メガネなのに、反射に頼らず目をきちんと描きこんでいるのもいいですね。

ちば賞事務局長・田渕 ずっと飽きずに続けられる世界やテーマを見つけられると生きると思いますけどね。

ちば先生 いろいろなものを読んだり見たりして、それを肥やしにして、この絵もどんどん変わっていくと思うんですよ。さらに魅力的になっていってほしい。これからに期待しています。






『ライトマイガーデン』
カモシダ(神奈川県・30歳)


編集部員・K渕 私が担当です。今まで5年くらい同人のイベントに合わせて漫画を描いていたのですが、今回、思い切って商業誌に投稿してみたそうです。

ちば賞事務局長・田渕 絵はとてもうまいと思いますが、仕上げがちょっと粗い感じもしますね。商業誌に載せるとその粗さが目立ってしまうかもしれない。

編集部員・K渕 今まで女の子のキャラクターしか描いたことがないのですが、今回初めて男の子を主人公に据えた話を描いたそうです。

ちば先生 そうですね。絵は走り描きみたいで線も軽い感じなんだけど、そうやって描かれるキャラクターが明るくて、かわいい。男性キャラは初めて描いたということですが、女性キャラはもちろん、この主人公の男の子も読者に好かれると思いますよ。それに作品の雰囲気がいい。話自体は重いのに、軽く淡々と描いている。ただね、さらっと力を抜いて描けるということはとても魅力的なんだけど、その分、何を描きたかったのかが伝わりにくくなってしまっていると思います。性欲と愛の重なるところ、違うところはどこにあるのかといった重厚なテーマをもっている作品なのだから、はっきりと言葉にして、正面からそれに向き合って描いても良かった気がします。






『黄金鳥』
ミヤマサンゴ(東京都・52歳)


モーニング編集長・島田 文学的な作風で、特にラストシーンについては解釈が分かれるんですが、作品として成立していると思います。この頃は日常的な、半径3メートルくらいの世界で描かれた漫画が多くなりすぎているんですが、この作品は失われつつあるスケール感や壮大さを備えている。今の時代に必要なんじゃないかなと思って、個人的には強烈に推しています。

ちば先生 田中政志さんの『GON』を思い出しました。あれも恐竜が生きていた時代の臭いを感じて、絵を見るだけでワクワクする迫力がありましたね。

ちば賞事務局長・田渕 この方は、美術学校で絵を学ばれた後、グラフィックデザイナーのお仕事をなさっています。ずっと漫画に憧れていて、初めて描いた作品がこの『黄金鳥』だとのことです。30ページくらいの作品のはずが、描いているうちに76ページに膨らんでしまったのですが、完成させたものをちば先生に見ていただきたいと、ちば賞に送ったそうです。

ちば先生 ということは、シナリオやテーマをきっちりと設定せずに描き始めたのかな? だから最後に、物語全体を通して何を言いたかったのかがわからなかったんだよね。因果応報というか、人間が鳥を狩ると鳥が人間を襲う、そしてまた人間が鳥を狩る、という繰り返しなのかな、とは思いましたけど。

ちば賞事務局長・田渕 ラストで主人公が鳥の爪を使ったお守りを子どもにあげて、その子どもが鳥にさらわれてしまう。自分を裏切った女に対する復讐であれを渡したんじゃないかなのかという読み方をした人も編集部にはいたんですが、作者にはその意図はなかったそうです。でも、世の中はそういう非情なものであるという見方もあっていいかなと。

ちば先生 作者の意図とは違うということですが、そういう読み方もできますね。

モーニング編集長・島田 この話に関しては読んだ人の数だけ解釈があっていい気がします。何が言いたいかわからない漫画っていうのは、実は作者にとっては正解があるんだけど作者が描きたかったことを上手く表現できていないだけのことが多い。でも、この作品に関しては、作者もはっきりした解釈は持ってないと思うんです。自分の中で言語化できない何かを物語にしたからこうなっているわけで、作者を含めてみんながみんなの解釈をすれば良くて、その解釈も読み返すたびに変わっていい。絵本って、大人が解釈を押し付けることはできないし、子どもが読んで何かを感じるものだけど、そういう意味では、この作品は「大人のための絵本」という感じがする。

ちば先生 確かにそうかもしれない。キャラクターも一人一人が魅力的だし、人物はもちろん、大自然と動物たち、死霊の描写を見ても、たいへん優れた画力を持っているのがわかる。さっき編集長が「絵本」といったけど、大人が読んでこれだけいろんな解釈ができる大叙事詩を描き上げる力量はすごいと思います。


『黄金鳥』は、6月11日(木)発売&配信開始の
「モーニング」&「週刊Dモーニング」28号より3週にわたり掲載されます。
最後の回が掲載される6月25日(木)までWeb公開は控えさせていただきます。




『square scape』
高木たかぎ政幸まさゆき(京都府・31歳)


編集部員・Y作 担当です。この漫画は、ちば先生がよくおっしゃる「読者を迷わせない」ということがあまりできていないのが弱みなのですが、「国民生活行動制限法」とか「キュレーション」とか、単語や設定にSF的なカッコよさがあって、私はそのセンスを評価しています。

ちば先生 絵はすごく時間をかけて、丁寧に描いているんだろうなと思います。ストーリーもいい話だったと思うんだけど、舞台が未来の都市なのに、現代と変わっていないように見えてしまった。人間が外に出てはいけなくなってからだいぶ経つ世界なんだから、都会がどう変わっていったのかということは見せてほしかったです。家が崩れかけて、窓を突き破って枝が生えてきていたり、ネズミなんかの動物がはびこっていたりとかするんじゃないかと思うんだけど、それが描かれていなかった。

モーニング編集長・島田 自分の描いている内容にいまいちリアリティを感じていないのかもしれませんね。放置された街が荒れ果てるのは想像できると思うんだけど、それを描けていないのは、自分で作っている世界の中に入り込めていないんだと思う。最近、漫画に季節を感じさせない人が増えてきた。『あしたのジョー』をはじめ、ちば先生の作品の心に残っているシーンを思い出すと、うだるような暑さや吹きすさぶ木枯らしも必ず一緒に浮かんでくるんですよ。そういうフィジカルな感覚が不足しているんじゃないかな。

ちば先生 インターネットの弊害なのかな。季節感もそうだし、臭いなんかもそうですね。漫画に描くことはできないんだけど、なんとかそれを想像しながら漫画を描いてほしい。植物が繁殖していたら、家の中にいる時はともかく、外に出た時に植物の強い臭いがすると思うんですよ。車で移動している時、飛んでいる大きな虫が窓から中に入ってきそうになったりね。そういうことを描けば、もっとリアルで「近々、こういう世界になってしまうかもしれない」と読者に思わせる作品になったのではないかと思います。






『君とロック』
あんずナオキ(北海道・30歳)


編集部員・H野 私が担当です。連載の1話目のイメージで描きだしたので、この話自体に明確なオチはないのですが、最後のシーンで主人公が叫びながらライブに出るシーンがすごく印象的でした。

ちば先生 主人公は最後まで迷って迷って、後ろからどーんと突き飛ばされてライブに出たとき、場の雰囲気に呑まれて爆発する。このシーンが描きたかったということが伝わってくるし、読んでいて爽快なくらい大きいコマで表現していますね。だけど、そこにいくまでの展開が唐突だったり説明不足だったりで、登場人物の気持ちにうまく入っていけなかった。

ちば賞事務局長・田渕 主人公が「本間」という人物に似ていることから騒動に巻き込まれるんだけど、彼が最後まで出てこないから、どう似ているのか、本当に似ているのかがわからないんだよね。

編集部員・H野 まったく同じ顔なので、あえて描かないという手法をとったのですが、わかりにくくなってしまったかもしれません。

ちば先生 それと、人前に出るのが嫌いな気の小さい主人公が、舞台に上がると人が変わる、そのきっかけの部分に説得力がほしかったです。ラストはすごく盛り上がるんだけど、読者はもやもやしたものを抱えて、せっかくのライブシーンで盛り上がりきれないんじゃないかな。人がガラッと変わるきっかけっていうのはすごく大事だから、それを描いてほしかった。







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