カレチ完結記念! 松本典久氏、向谷実氏、南田裕介氏による伝説の(?)記事【“指摘”テツ座談会】を特別公開します!

2013/07/04 00:00

モーニング本誌情報

本日7月4日(木)発売の「モーニング」31号で、池田邦彦『カレチ』が最終回を迎え、5年にわたる連載の幕を閉じました。単行本最終⑤巻は8月23日(金)発売、同時に①~⑤全巻の電子版配信もスタートします!

これを記念して、本誌2011年15号に掲載され、その凄まじいテツ分濃度が波紋を呼んだ伝説の(?)記事、【“指摘”テツ座談会】を特別にWeb公開します! 松本典久氏、向谷実氏、南田裕介氏という著名テツ3氏がこれでもかと作品を徹底解剖する座談会、この機会にぜひご覧ください!



『カレチ』特別企画 【“指摘”テツ座談会】

テツの世界では知らぬ者なしのツワモノ3名が、
それぞれ愛用の古い時刻表を手に集結!
本誌連載作品『カレチ』の気になるコマに対して、
マニアならではの“指摘”を入れまくった!
撮りテツ、乗りテツならぬ
【“指摘”テツ座談会】レポート!

<strong>松本典久(まつもとのりひさ)</strong><br>
鉄道や旅をテーマに取材を続けるジャーナリスト。『図説 絶版国鉄車両』(講談社刊)など著書多数。

松本典久(まつもとのりひさ)
鉄道や旅をテーマに取材を続けるジャーナリスト。『図説 絶版国鉄車両』(講談社刊)など著書多数。

<strong>向谷実(むかいやみのる)</strong><br>
人気バンド・カシオペアのキーボード担当にして、ゲームソフト『トレイン・シミュレーター』の開発者。(株)音楽館代表取締役。

向谷実(むかいやみのる)
人気バンド・カシオペアのキーボード担当にして、ゲームソフト『トレイン・シミュレーター』の開発者。(株)音楽館代表取締役。

<strong>南田裕介(みなみだゆうすけ)</strong><br>
テレビ番組『タモリ倶楽部』で熱いテツぶりを披露して以来、その方面の人気者に。芸能事務所・ホリプロ社員(アナウンス室担当)。

南田裕介(みなみだゆうすけ)
テレビ番組『タモリ倶楽部』で熱いテツぶりを披露して以来、その方面の人気者に。芸能事務所・ホリプロ社員(アナウンス室担当)。

※各氏のプロフィールは記事掲載時(2011年)のものです。


カバー絵からして憎い仕掛けが!

松本典久氏(以下、松本)
「まず第①巻のカバー絵(※【1】)がED74というところに注目ですね。鉄道マニアにはこれだけで、この作品の時代背景(=昭和40年代後半)がパッとわかる」
南田裕介氏(以下、南田)
「日豊本線が、電化された頃ですね」
松本
「そう。この電気機関車は、最初は北陸本線向けに作られたんだけど、日豊本線に移ってきたんだよね。数も6両しかなかったし、あんまり人気もない(笑)。それをあえて出してるのが、心憎いね」
向谷実氏(以下、向谷)
「その後ろに、さりげなく20系客車が描かれてるのに、僕はグッときましたけど(笑)」
南田
「はい、はい! 帯がクリーム色のですね!」
松本
「昭和33年に『あさかぜ』で登場した車両で、いわゆるブルートレインの元祖ですね。この20系客車を使った夜行寝台特急がかつては、北海道と四国を除く、日本中を走っていた」
向谷
「だから僕ら世代にとってこの組み合わせは、ひとつの“あるべき鉄道の姿”だよね。同じように感じる人は多いと思うから、それをテーマにした旅行の企画なんか、いいと思うなあ。ちょっとした不便を、むしろ楽しむような」


【1】 第①巻カバー。ED74と、後ろに20系客車。

【1】 第①巻カバー。ED74と、後ろに20系客車。



当時の時刻表で絵を検証してみたら!

向谷
「この福知山線706列車(※【2】)にもシビレましたね。この当時はA寝台と呼ばれてた1等寝台車=オロネ(※【3】)もちゃんと描かれていて、往年の客車急行そのもの! 当時はこれにグリーン車も連結されてたから、今の『カシオペア』みたいな“豪華列車”とはまた違う意味で、豪勢だったんだよね」
南田
「わー、そのグリーン車、乗ってみたい!」
向谷
「これには荷物車もたくさん連結されてたはずだけど……(当時の時刻表を手に、巻末掲載の列車編成表を調べ始める)。やっぱり“下り方”(=下り方向)に荷物車が4両もついてて、その隣りがオロネだ。ということは、荻野カレチが発車合図を出しているところ(※【3】)から荷物車が連結されていたと……おお、このコマの絵で、列車編成も方向も合ってる」
松本
「それを牽いていたDD54という機関車(※【2】)に、作者は相当な思い入れがあると見えますね。ドイツの技術を導入して作られたディーゼル機関車なんだけど、故障が多くてね。日本では今ひとつ使いこなせなくて、それが国会で問題になったという、いわくつきのものなんですけど」
南田
「へえー、全部で何両ぐらい作られたんですか?」
松本
「40両。それで、なぜ思い入れを感じたかというと、以前にもこの機関車は登場していて(※【4】)、何とちゃんと顔が違うんです。製造の前期と、量産された後期とでモデルチェンジされたのを、描き分けてるんですから。相当なもんです」


【2】 第②巻64ページ1コマ目。DD54(前期型)が牽く706列車。   

【2】 第②巻64ページ1コマ目。DD54(前期型)が牽く706列車。   

【3】 第②巻64ページ4コマ目。荻野カレチのいる前の車両がオロネ。

【3】 第②巻64ページ4コマ目。荻野カレチのいる前の車両がオロネ。

【4】 第①巻109ページラストのコマ。DD54(後期型)。

【4】 第①巻109ページラストのコマ。DD54(後期型)。



『パタパタ』の数でわかった、あのコマの意味!

松本
「第8話の隠れた主役であるマルス(※【5】)は、調べてみたら、105型のようですね」
向谷&南田
「……?」
松本
「この、本みたいにページをめくるやつ、いわゆる『パタパタ』ですけど、旧型の104型には、ひとつしかついてなかった。だからピンをまず発駅に差して、次に経由駅に差して、最後に着駅に差してと、入力に時間がかかった。それがこの105型では、それぞれに『パタパタ』がついてるから、一度に3本のピンが差せて凄く早くなったんです」
向谷&南田
「そうなんだ!」
松本
「これがねえ、いつ主要駅に導入されたかというと、山陽新幹線が西へ伸びて、指定券の発行枚数が増えた昭和47年なんですよ」
向谷
「えっと……作中に出てきたキップ(※【6】)の日付は、昭和48年11月になってる。つまり、当時の最新鋭機が導入されて間もない頃だ!」
南田
「それで最後に、大事そうにカバーかけてるんだ!(※【7】)」


【5】 第②巻3ページ。105型マルス。

【5】 第②巻3ページ。105型マルス。

【6】 第②巻6ページ2コマ目。

【6】 第②巻6ページ2コマ目。

【7】 第②巻21ページ2コマ目。

【7】 第②巻21ページ2コマ目。



その当時ですら貴重だった、夢の場面!

向谷
「これ見てよ、2本の『あかつき』が並んでる!(※【8】)」
南田
「あああ~~これ……!」
向谷
「それまでブルートレインといえば20系ばっかりだったのに、新たに14系が投入された。そういう歴史的事実を、一度にパッと見せてくれてます」
松本
「この方向幕(※【9】)だけでもマニアにはすぐ、14系と20系だってわかるな」
向谷
「そう……強烈に訴えかけてきてます(笑)」
南田
「僕、この瞬間に行って、このホームに、2本の真ん中に立ちたい……。一生かなわない夢!」
向谷
「この頃の列車の1号、2号という名前の付け方って、今とは違ってますよね」
松本
「そう。当時はたとえば1号の下り、1号の上り、と両方があったけど……今は下りが奇数、上りが偶数ですね」


【8】 第②巻44ページ1コマ目。右が20系で、左が14系。

【8】 第②巻44ページ1コマ目。右が20系で、左が14系。

【9】 第②巻44ページ6コマ目と7コマ目。上が14系で、下が20系。

【9】 第②巻44ページ6コマ目と7コマ目。上が14系で、下が20系。



実は見所は、すれ違う列車にあり!

南田
「僕は列車の“すれ違い”に注目だと思うんです。ここで『雷鳥』とすれ違ってるの(※【10】)、今のコンテナ専用列車じゃなくて、昔の、有蓋車とかタンク車とかがいろいろつながってる貨物列車ですよね。北陸本線は関西と東北を結ぶ重要な物流ルートでしたから、こういうの、たくさん走っていたはずなんです。それがちゃんと描かれてる。それとか、ここで『しおじ』とすれ違っているのは583系寝台電車!(※【11】) しかも、しかもですよ……人気があるパンタグラフ直下の部分を、さりげなく目立たせてる!」
松本
「確かに。この車両は昼間は座席特急、夜は寝台特急として日本中を走った、大量輸送時代の申し子だね。通常は3段式の寝台が、パンタグラフの真下だけは屋根が低くて2段になってるから、広くて人気があるんだよね」
南田
「僕、この絵を見て、『きたぐに』に乗りたくなっちゃいました!(※編集部注:『きたぐに』(大阪-新潟間急行)は現存する、583系による唯一の定期列車) それから、凄く気になってるのが、コレ(※【12】)。この右にいるの、153系電車ですよね。夜の新大阪駅にコレがいるというのは、一体、何の運用に入ってたんでしょうねえ。間合い運用(=車両の空き時間の利用)か、回送なのか……うーん、気になる!」
松本
「新快速なんじゃない?」
南田
「でも、急行色みたいですから……『玄海』かな?」
松本
「違うよ。『玄海』は九州乗り入れだから交直流電車、153系は直流だから」
南田
「そうかあ。じゃ『山陽』かな?」
松本
「う~ん……だけどこの頃は新幹線が岡山まで行ってたから、『山陽』は岡山発着だったはず」
向谷
「団臨(=団体専用臨時列車)だったのかもね」
南田
「それなら、オデコの方向幕に『団体』と出ているはずですけど(コマの絵をジッと見る)。ああっ、このジリリリっていう効果音で……」
松本&向谷
「見えない!(笑)」


【10】 第①巻89ページ・ラストのコマ。

【10】 第①巻89ページ・ラストのコマ。

【11】 第②巻88ページ1コマ目。手前を走る『しおじ』の顔のすぐ左が、パンタグラフ下。

【11】 第②巻88ページ1コマ目。手前を走る『しおじ』の顔のすぐ左が、パンタグラフ下。

【12】 第②巻132ページ5コマ目。

【12】 第②巻132ページ5コマ目。



もう止まらない、鋭すぎる“指摘”!

向谷
「鉄道博物館の蒸気機関車シミュレーターを作った人間としては、ここは“指摘”せざるを得ない、というコマがありまして(笑)。この運転台(※【13】)ですけど、シリンダ圧力計は停車中ならゼロを指してるはずですね。あとこのC58の発車(※【14】)は、ドッドッドッという音と同時に、シリンダのシュシュシュという排気音も、描いてほしかった!」
松本
「蒸気といえば、知らない人が見たらコレ(※【15】)、蒸気機関車が停まってると思うかも」
向谷
「ああ、これはEF58の客車暖房の蒸気ですね」
松本
「そう。電気機関車だけど、客車を暖房するためのボイラーが装備されてたから、その排気だね。これぞ、鉄道好きならではの季節感の表現ですよ。あとこの喫煙室(※【16】)、これを見るとオシ17でも後期型の車両だってわかるんだ」
向谷
「あー、このスペース、高級感あったよね!」
松本
「前期型では普通のシートだったんだけど、後にこういうサロン風に変わったんだ。そんな部分を描いてるのも、作者の思い入れだね」


【13】 第①巻68ページ・ラストのコマ。シリンダ圧力計は、左にいる機関士の前。

【13】 第①巻68ページ・ラストのコマ。シリンダ圧力計は、左にいる機関士の前。

【14】 第①巻36ページ1コマ目。C58。

【14】 第①巻36ページ1コマ目。C58。

【15】 第①巻56ページ1コマめ。EF58。

【15】 第①巻56ページ1コマめ。EF58。

【16】 第①巻57ページ1コマ目。

【16】 第①巻57ページ1コマ目。



アウトの行動から見えた、作品のテーマとは!

南田
「この幻のひとコマ(※【17】)ですけど……僕がもし荻野カレチだったら、こうさせてあげます。でも、誰にも言わない。マンガにも描かない!(笑)」
松本
「まあ、このくらいのことするのは可愛いもんだってくらい、国鉄にはいろいろな伝説がありましたね。僕もあれこれ聞いたことがあります。これは公にはできませんが……」
向谷
「そうですね、今のご時世ではアウト。でも当時の、ひとりひとりの責任が大きく、技術をどこまでもきわめる、といった職人的な仕事の裏には……ここに描かれてるような、鉄道に対する愛っていうのが、確かにあったんだと思うな」
松本
「踏切で積み荷を載せるのも(※【18】)ちょっとばかり無理じゃない?」
向谷
「でもキャベツ畑のそばに停めて積んだという実例があるよ。そういうダイヤが特例として組まれたんです」
松本
「この作品の登場人物たちは、こういった規則と実際の運用とのせめぎあいを一生懸命考えて、それぞれ自分のやるべきことをやってる。これは気持ちがいいね」
向谷
「そう。第2話では荻野カレチが自分のミスに、目玉焼き定食25回分なんていう(笑)、自分なりの落とし前をつけてるんだけど(※【19】)……そういう職人魂みたいなものを感じられるのが、この作品の心地よさかな。それにこの当時を知ってるという、優越感も味わえる(笑)。なにせ僕はバンドで全国ツアーに出てた頃、ほかのメンバーはグリーン車でも、早起きしてひとりで各駅停車の旧型客車に乗って移動してたくらいですから。まさに原体験で、本当に懐かしいです」
松本
「その優越感は、あるね。当時の寝台特急がどれだけ贅沢で、どれだけ憧れの的だったかなんて、今の人にはなかなかわからないだろうからなあ」
向谷
「鉄道というコンテンツの幅広さも、改めて感じましたね。この作品なら、まずはストーリーを楽しみ、二度目は時代背景などのディテールを楽しむっていうふうにできるもの。さらにはマニア同士で今日みたいに、“指摘”バトルだってできる!」
松本
「でも一般読者でも、十分面白く読める!」
南田
「でもマニアも満足!」
向谷
「究極だね(笑)」


【17】 「モーニング」本誌2010年17号掲載の第11話「出発合図」より。雑誌掲載後に改稿され、このコマは消えて幻となった(単行本第②巻には改稿後のものを収録)。

【17】 「モーニング」本誌2010年17号掲載の第11話「出発合図」より。雑誌掲載後に改稿され、このコマは消えて幻となった(単行本第②巻には改稿後のものを収録)。

【18】 第②巻145ページ7コマ目。

【18】 第②巻145ページ7コマ目。

【19】 第①巻42ページ・ラストのコマ。荻野は精算ミスを弁償した金額を、目玉焼き定食何回分かに換算して、ミスの痛さを記憶に刻み込んだ。

【19】 第①巻42ページ・ラストのコマ。荻野は精算ミスを弁償した金額を、目玉焼き定食何回分かに換算して、ミスの痛さを記憶に刻み込んだ。



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