『へうげもの』新ロゴ誕生。揮毫した書家・川尾朋子さんにお話を聞きました。
2014/04/11 19:45
そこで川尾さんにご登場願いまして、『へうげもの』との係わり、新ロゴ誕生の裏話など、あれこれ語っていただきます。紙のモーニングでもDモーニングでも読めない、モーニング公式サイト独占企画にて候!
“古田織部と『へうげもの』と書と漫画と私”
書家・川尾朋子さんミニインタビュー
書家・川尾朋子さんミニインタビュー
『へうげもの』との出会いは「増上寺」のお導き
昨秋、東京・芝公園の増上寺で開かれた美術・工芸のイベント、第一回【天祭一〇八】のロゴを書かせてもらいました。『へうげもの』も全面協力ということで、主催者のアートディレクター・石橋圭吾さん(白白庵)から担当編集の方を紹介されたのが『へうげもの』との出会いでした。ふだんほとんど漫画を読まないので、タイトルしか知らなかったんです。その場でいきなり「ロゴ書いてください!」って言われて、一瞬とまどいましたけど、やきものはけっこう好きだし、古田織部が主人公の作品だし、徳川将軍家の菩提寺でもある増上寺が結ぶ“因縁”なのかなと(笑)、ほぼ二つ返事で謹んでお引き受けしました。
幕末が舞台の大河ドラマ『八重の桜』のオープニング映像に作品を起用してもらったり、「伝統と現代」という『へうげもの』のモチーフにも心ひかれるものがありまして。京都の自宅へ戻るなり、単行本を全巻ダダッと読破して、一気にのめり込みましたね。
私が好きな『へうげもの』と織部
やきものや茶の湯を通じて、古田織部のことを知ってはいても、千利休とちがって関連書も少ないし、なじみの深い人物というわけではありませんでした。いったいどんな人だったのか、山田さんが描く織部によって、初めて想像できた気がします。『へうげもの』の中で一番好きなのは——夜中に胸さわぎがして、不安で仕方ない。自分が集めた宝物を眺めて、ホッとする織部のシーン——でしょうか。
いいものと出会った時のよろこびとか、大切なものを愛でるよろこびとか、誰にでもありますよね。いわゆるコレクターではなく、欲しいものは自らの手で創り出そうとする織部のクリエイティブな本能には、人間としても作家としても激しく共感してしまいました。
それに加えて織部のモダニスタぶりときたら、いまの世の中に、はたしてこんな人がいるだろうかと、時代を超えてライフスタイルやオシャレについて考えるきっかけにもなっています。
山田さんの画のタッチは、女性にとってはちょっとなじみにくいようですが、読めば読むほどみんなが愛してやまない漫画、長く読み継がれるべき漫画じゃないかと。古田織部の人間像はもちろん、山田芳裕さんという漫画家のジャンルを超えた大きさ、深さにも、あれこれ感じ入っているところです。
『へうげもの』からのリクエストは「うんこ」みたいな文字だった
『へうげもの』のロゴを書いて、(18号の)表紙で画家の山口晃さんとはからずもセッションさせていただき(※関連ニュース)、いろんな反響がありました。気づかずにいただけで、自分のまわりにはモーニングの読者がけっこう大勢いたんですよ(笑)。同業者というか、アーティストの知り合いが多いんですが、海外に住んでる友だちからも「モーニング見たよ!」とメールをもらったり(笑)。
漫画のロゴを手がけるのはこれが初めてですが、作家活動の広がりというか、ジャンルの越境というか、いろんなものをわしづかみにしているような、いままでにない驚きやよろこびを感じています。漫画ってやっぱり影響力が強いんですね。
私への依頼は「強いけど女性らしい書」がほぼ100パーセントです。ところが、『へうげもの』の場合はまったく違ってました。山田さんからのリクエストは、「うんこ」みたいな「ねっとり」とした文字(笑)。
担当編集の方は女性の私に気を遣ってくれたのか、ずいぶん申し訳なさそうでしたけど、すでに全巻読んでいたので、言わんとするところは即座にピンときました。プラス、作中で織部が命じた「鼻たれ小僧」が「無心」に書いたような文字という要望に、なんだか漫画の登場人物になったような気がして、かえって燃えました。
ふだんの仕事も一発ではなかなか決まらないのが常ですが、今回は特にじっくり書きたかったんです。インパクトだけを求められると、集中力は発揮できても飽きがくるのも早い。一枚書いて、何日か家に飾っておいて、寝かせてから清筆する。なるべく慎重に大胆にと、ふだんにもまして、試行錯誤をくりかえしました。
自分としてはとても長い時間、織部のことをじっと考え抜いた挙句、このロゴに至ったわけなんですが、山田さんのイメージする「うんこ」にどうにか近づけたようでよかったです。
モーニング(18号)の発売日当日、本屋さんへ飛んで行きました。店頭で自分が書いたロゴも載ってる表紙を見て、ホントうれしかったです。
山田さんの世界と山口晃さんの「山口織部」と私の書。思ってもみなかった三位一体の共演が実現したよろこびもあるし、漫画誌の表紙としてはかなり異色な、なんとも言えないたたずまいに惚れ惚れしました。
画面の一番下、『へうげもの』が「へう」で切れてるのがとびきり“乙”ですね。自分の作品をこんなふうに大胆に扱ってもらうのは初めてです。デザイナーさん(※シマダヒデアキ/L.S.D.)の“乙”なセンスに心から感謝しています。モーニングと『へうげもの』がますます身近な存在になりました。
4月18日から東京の増上寺で第二回【天祭一〇八】が開催されます(※関連ニュース)。今回、“『へうげもの』組”作家の一人として、友人の井上雅博さん(京表具井上光雅堂)とのコラボ作品を出品します。ぜひ観にいらしてください。
川尾朋子(かわお・ともこ)
書家。6歳より書を学び、国内外で様々な賞を多数受賞。2004年より祥洲氏に師事し、書の奥深さに更に取り憑かれ、“書に生かされている”ことを強く感じる。古典に向きあう日々の中で、代表作である「呼応」シリーズが生まれる。
“生活の中にある書”として、阪急嵐山駅の「嵐山」をはじめ、新聞、テレビ、ラジオ等の各メディアや寺社、ファッション、インテリアなど、さまざまな媒体に登場する文字や墨表現も好評を得ている。
現在「関西ウォーカー」(角川書店)にて「人字部長 川尾」を連載中。
公式サイト【書家 川尾朋子 KawaoTomoko.com】
書家 川尾朋子 公式Facebookページ
川尾朋子ツイッター @kawaoto
なお、インタビュー中でも触れられていますが、いわば川尾さんと『へうげもの』の縁結びの神である美術・工芸イベント、第二回【天祭一〇八】が4月18日(金)~20日(日)まで芝公園・増上寺にて開催されます。詳細はこちらのニュースにて。
古田織部とも因縁の深い徳川将軍家の菩提寺に総勢四十数名の作家が集結。川尾さんもまさにへうげた作品を引っさげて参戦します。ウェルカム!